第82章:さようなら、めぐみ・・・茂、号泣す
3月。
この日は・・・漆原めぐみの「退職」の日だった。
神様から大切な子供を授かりし彼女・・・5年以上も、この食糧事務所のために、誠実に、明るく尽くし、皆に愛された彼女も、この日が最後の勤務となった。
職員全員に見送られ、大きな花束を手にした彼女は、自分の部屋の最高責任者であり、検査部に赴任して以来、自分の親同様、大きな存在であった、森川明検査部長に付き添われ、皆に礼を述べ、深々と頭を下げると・・・表玄関先の道路に待つ、黒塗りの官用車へ・・・。
みな、一様に泣いていた。
検査部長も、蛭田管理官も、根岸氏も・・・そして、武村や、佐藤、仁井田・・・あの桑川さえも、みんな泣いている。
そして、茂も。
・・・本当に、めぐみとの別れを惜しんでいる。
そして、官用車が、まさに出発しようとエンジンをかけた、そのとき・・・!
彼女の元へ駆け寄る一人の男が!
茂は、もういてもたってもいられなくなり・・・たまらず、いとしいめぐみのそばへ駆け寄ったのだった。
「・・・めぐみちゃん。今まで、本当にありがとう。君がいてくれなかったら、今ごろ僕は・・・。」
「茂さん・・・。ありがとう。私・・・私、あなたのことを、決して忘れないわ。本当に楽しかった。あなたと今日、こうして別れるのは、とってもつらいけれど・・・茂さん。あなたの『大切な人』を、最後までしっかりと守ってあげてね。私・・・いつまでも茂さんの幸せを祈っているわ。さようなら・・・。」
そう、めぐみが告げると、ふたりはしっかりと抱き合い、茂が、彼女のおなかをいとおしそうに優しくさすってあげると・・・彼女の目からは、激しい涙が・・・。
官用車が去ると、茂は、また心に大きい「穴」が開いたような気がした。
いつも自分に寄り添い、助けてくれためぐみ。
自分を想いながらも、その想いが決して届かないことを悟り、ひとり、さびしい思いを抱えていた、めぐみ・・・・。
茂は、また、ひとつの大切な『たからもの』を自分が無くしてしまったことを知った。
「本当に大切なものは、失ってみなければわからない。」
このことを実感し、悟り、かみしめ・・・この夜、彼は、夜通し泣きつづけるのであった。




