第80章:誘ってくれない茂・・・そして、めぐみの心中
噂は、事務所中を駆け巡り・・・普段は、連中の「裏情報」というものをまったくキャッチできなかった茂の耳にさえ、その情報は、実に「クリアー」に、迅速に届いてきたのである。
それによれば、めぐみは、茂と帰り道に何度も立ち寄ったことのある「たこ焼き屋」の店主と、いつの間にか交際していた、というのだ。
そして、ふたりは・・・。
このとき、本当に「鈍い」茂にも、めぐみの心中が理解できたのだ。
・・・きっとめぐみは、茂のことをずっと待ち続けていたに違いない。
給湯室で談笑し、帰りも仲良く歩を共にし・・・買い物、ラーメン・・・そして、「たこ焼き」。
日を、時を違えて、「あや」に会っていた茂ではあったが、いつしか彼は、めぐみとの「大人の恋」というものに魅力と居心地の良さを感じるようになり・・・しかし一方で、それ以上、ふたりの「関係」を進めることができない・・・こういったジレンマに陥っていたのだ。
めぐみは・・・いつになっても自分を「誘ってくれない」茂に対し、不満を抱いていたのかもしれなかった。
・・・いや、そうではない。
彼女は、茂といっしょにいながら、実は、心中、さびしい思いをしていたのではなかったのだろうか・・・。
彼をずっと想いながらも、その肝心の彼が、自分でない、他の誰かに、ひそかに心を寄せている・・・そのことに、女性特有の「カン」で、それとなく気づいていたのかもしれない。
やがて、2月に入り・・・めぐみが、この食糧事務所を去るという噂話が流れはじめた。




