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第78章:上品でおだやかな「淑女」・・・あや

 「・・・しげちゃん、おいしい?」


 あやの優しい声が、疲れきった茂の耳に心地よく響く。


 彼女の、茂への呼び名も、いつしか、「茂さん」ではなく、もっと近しい「しげちゃん」に変わっていた。


 彼女が『パラダイス キャンパス』への出勤前に買ってきて、店の冷凍庫に保管しておいてくれた、バニラのアイスクリームだ。


 彼女は、いつも、「サービス」が終わり、延長の時間に入ると、茂が来る前に自らが買っておいたアイスクリームやら、牛丼やらを出してくれ、彼をもてなしてくれていた。


 茂が「金欠状態」に近くなると・・・料金の半分、ときには、全額を負担してもくれ、本当に茂に尽くしてくれた。


 茂自身、いまだ、心の奥底では、「峯岸美絵子」が、忘れられない大切な存在として君臨していたのであったが・・・だんだんと、この「新しいパートナーそのもの」の魅力、そして存在を、美絵子を押しのけるような形で、全面的に受け入れるようになっていったのだ。


 たしかに「あや」は、「他人のそら似」とは思えないほど美絵子に似ており、少し遠くで撮影されたら、彼女たちをよく知らない第三者から見れば、その写真は、両者の区別がつかないほど、どこからどう見てもソックリだった。


 しかし、いまや茂は、「あやそのもの」に心から惚れていた。


 あやは優しかった。


 本当に優しかった。


 じつに思いやりがあり・・・そして、上品でおだやかな「淑女(しゅくじょ)」。


 金のため、生活のため、風俗店のホステスの地位に甘んじていたとはいえ、正直、このまま「芸能界」に飛び込んでも、十分通用するのではないか・・・そこまで思わせるほど、美しく、可憐(かれん)で、魅力的な女性だった。


 こうして、あやとの「甘いひととき」を満喫(まんきつ)する茂は・・・かつての自分に優しくしてくれた、北海道の「田中理沙」との甘く、おだやかで、なつかしい3年の日々を思い出していた。


 美絵子がいない時分・・・つらく孤独な茂に、「美絵子の代役」として毎日のように寄り添ってくれ、励まし、勇気と生きる力をくれた、あの「優しい天使」の面影を・・・。


 苦しい「北海道農業実習」の際も、父の健一氏、母の夕子氏とともに、作業に不慣れで、不安な茂をあたたかく迎え入れてくれ・・・ときには学校を休んでまで作業に寄り添い、最後まで自分に甘え、そばについて安らぎを与えてくれ・・・別れに際しては、自分がつらいのに、茂と美絵子の幸せをも祈り、そっと彼の背中を押して去っていった、あの限りなく優しい、なつかしすぎる面影の数々を・・・。


 そして、そんな茂が信頼し、いま最も必要な、一番の「味方」「パートナー」こそが、この「あや」という、新しく、そして、不思議な不思議な素性(すじょう)の女性であったのである。

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