第76章:女性職員の変化・・・見直される茂の本質
その翌日。
茂が給湯室から出て、検査課の部屋に戻ろうとしていたときのこと。
昨日、T会館で大会に出ていた磯川氏と、めぐみたち数人が、通路の端で声を潜めて話しているのが見えた。
その言葉の端々はよく聞き取れなかったが・・・どうやら、自分について話しているらしかった。
「・・・やっぱり磯川さん。もう、いっそのこと、『カミングアウト』しちゃったほうが・・・」
「そうそう。あたしもそう思う。変な形でみんなに伝わる前に・・・。」
「でも・・・。」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
それから半月あまりが過ぎ・・・職場内の女性職員の間での、茂に対する態度やふるまい、目の配り方といったものが、徐々にではあったが、変化し始めた。
その間、茂は、あの日の磯川氏との約束を固く守り、職場の人間に、彼女の大会出場に関する一切の情報を、ただの『ひと言も』、漏らすことはなかった。
(この、杉山という人は・・・なにか違う。周りの職員の男たちとは、決定的に何かが違う・・・。)
磯川氏はじめ、めぐみたち女性職員は皆、「情報は漏れるもの」「漏らすのが当たり前」と認識してきた。
この食糧事務所でも、誰かに打ち明けられた大切な情報でさえも、「いつかは必ず漏れるもの」というのが、当たり前の常識だったからだ。
ところが、自分たちが共有し、茂に知られたあの情報が、いつになっても男性職員に漏れる気配が見られないので、逆に「当惑」さえしている・・・そんな様子であった。
(こんな人も、まだ世の中には存在していたのか・・・。私たち、妙な噂話に踊らされて、この人の『本質』というものが見えなかっただけなのかも・・・。)
そんなことがあってからは、女性職員の、茂への印象が根本からガラリと変わり・・・茂とめぐみの関係も以前のように元通りに・・・いや、より絆が深く、あたたかい関係に進化していったのである。




