第73章:悪いうわさ
茂がまゆみの姿を見なくなってから一ヶ月あまり過ぎたころ。
この「食糧事務所」では、茂についての悪いうわさが、日を追うごとに「陰口」として聞かれるようになっていた。
もう、この食糧事務所の「本所」はもちろん、各地に設置されている「支所」においても、同じことだった。
茂がそれとなく、その「内容」を悟ったのは、漆原めぐみをはじめとする「女性職員」の態度がキッケケだった。
だれもかれもが茂を警戒し、避けていた。
検査課がある部屋に書類を届けに来た若い女性職員が茂と目が合ったなり、身震いするような「そぶり」を見せつけ、おおげさに逃げるのを何度も目撃したのだ。
ここに至って、ニブイ茂の頭にも、ようやく「正解」が見えてきたのである。
・・・それは、茂とあやが「逢引き」する、あの『パラダイス キャンパス』の存在だった。
以前、柳原まゆみに、『パラダイス キャンパス』の一階駐車場のスペースにて、社長の深沢氏と長話するところを目撃された茂。
さらに翌日、その行動を問い詰められ、なじられた茂。
・・・きっとまゆみはそのとき、自分という存在を無視して、「女遊び」にこっそりとふける茂を許せなかったのだ。
「私がこんなに想いを寄せているのに・・・なぜ?」といった心境だったのだろう。
まゆみ自身は、きっといまでも茂を愛しているのだろう。
しかし、その「愛の強さ」というものが、そのまま「憎しみ」というとてつもなく強い「負のエネルギー」に置き換わり・・・いつしか「復讐」という形に変貌を遂げてしまったのかもしれない。
俗にいう、「かわいさあまって憎さ百倍」・・・。
いや、そんな単純で浅いものじゃない。
茂は思った。
この、まゆみの「負のエネルギー」が、なんらかの形で、桑川の自分に対する「嫉妬心」と結びつき、結託し・・・利害が完全に一致してしまったとき、恐ろしい「魔物」として、目の前に現れたのだ、と。
茂は、以前、最愛の恋人「峯岸美絵子」に対し、自らが行なった「おぞましい行為」を思い出していた。
そのとき彼に憑いた「魔物」・・・それがいま、ふたたび彼の前に姿を現したのであった。
そしてそれが、また彼の運命を容赦なく翻弄しようと画策し、まがまがしい「毒の牙」をひそかに砥いでいたのである・・・。




