第67章:孤独な人ね
食糧事務所には、男性職員に比べ、数では劣るものの、女性職員も存在していた。
茂が入所して以来、彼が所属する「検査課」においても、「男と女」の微妙な関係が生まれつつあった。
彼を、勤務初日に、親切にも玄関から検査課の部屋まで案内してくれて、さらには、日々の「お茶汲み」などの雑用においても、優しく手をさしのべてくれている、5年先輩の「漆原めぐみ」の、茂に対する態度にも、少しずつ変化が見え始めたのだ。
彼女は、茂が少し遅れて入館してきた朝に、給湯室で、物憂げにためいきをついていることがあった。
そこへ茂が行くと、彼と目が合っためぐみの表情が、パッと明るくなり、まるで「王子様」が迎えにでも来たような、それは幸せそうな顔に変わるのである。
また、こんなこともあった。
茂が、検査室内の古いパソコンにデータ入力していたときのこと。
このとき、検査室には、彼の上司の武村、部長の森川明氏、さきの場面で出てきた根岸氏などがいた。
画面とにらめっこし、細かい数値を打ち込んでいく彼に、少し遠慮がちに、めぐみが話しかける。
「・・・ねえ、杉山さん。あたしがいる、テニス部に入らない・・・? 杉山さん、運動神経よさそうだから、きっと楽しいと思うんだけど・・・。」
「え・・・? いや、漆原さん、ごめんなさい。僕はですね・・・最初の自己紹介で話したとおり、『ボディビル』やってますので・・・。」
すると、めぐみは少しさびしそうに、うるんだ瞳で茂をじっと見つめると・・・たったひと言。
「はぁ・・・。孤独な人ね。」
(『孤独な人』・・・か。そうかもしれない。美絵子ちゃんとも、理沙ちゃんとも、そして、里香ちゃんとも別れてしまった僕には・・・いまはもう、あやちゃんしかいないもんな。柳原まゆみちゃん・・・ごめんね。君は、悪いけど『恋の対象』にはならなそうだよ。さらに、この漆原さんについては・・・。)




