第63章:根岸氏の謝罪と関谷の本性
「・・・杉山君。あらためて君に謝るよ。ビンタなんてしてしまって、すまなかった。」
部屋に帰るなり、根岸氏は、茂に頭を下げた。
「いえ、いいんです。というより・・・僕のほうこそ、すみませんでした。あそこで根岸さんがああしてくれなかったら、今ごろ、関谷さんと殴り合いに・・・いえ、大乱闘に・・・。」
「そうだね。・・・でも、実際に殴り合えば、たぶん、杉山君の方が強いだろうね。彼は・・・クチばっかりの、ヘナチョコ野郎だから。」
「そうなんですか・・・?」
「今夜は珍しく、『正論』をぶったんで、僕も、おおっ、って感心したくらいなんだ。いつもはね、もっとハチャメチャのいいかげんな男なんだよ。」
「・・・・・・。」
「それにしても、杉山君。ずいぶん、ガッチリしたカラダしてるよねぇ・・・何か柔道とか、格闘技でもやってるのかい?」
「はい。二年前から、ボディビルやってます。自宅で、自己流で、ほそぼそとですけど・・・。」
「そうか、どおりでね。でもね、杉山君。あの飲み会の恐さっていうのは、まだまだ、あんなもんじゃないよ。それに・・・」
そこまで言うと、根岸氏は、部屋のドアを少し開けて、通路の様子を確かめ・・・また話し始めた。
「いいかい、杉山君。本当に大変なのは、このあと。部屋に戻ってからの『二次会』が問題なんだ。」
「『二次会』・・・ですか??」
「そう。このあとね、たぶん、この部屋が『修羅場』に変わるからね。覚悟しておいたほうがいいよ。本当に大変なのは、ここからなんだ。」
「・・・・・・。」
「そうは言っても、間違っても、連中は、新人の君を『リンチ』にかけるようなことはしないだろう。でもね、関谷さんだけは、正直、やりかねないよ。ある意味・・・『狂人』だからね。」
「『狂人』・・・って・・・。」
「あまり言いたくはないけど・・・『狂っている』よ、彼は。関谷さんがさっき君をなじったのは、君が桑川君のように、彼にまっさきに勺と挨拶に行かなかったからなんだけどね。まぁ・・・そのあと、嫌味ったらしく君を待たせたのは、少しやりすぎだとは思った。さらにビールをかけたのは・・・言わずもがな、だけどね・・・。今夜は、そういった意味で、彼は珍しく、『まとも』だった。そう思うよ。」
茂は、ここまで聞いて・・・自分が、いかに「無知」で「非常識」だったのかを、客観的に知ることが出来た。
しかし、初日に、自分を「小会議室」に案内してくれたときの、関谷氏の、気持ちの悪いほどの「低姿勢」を思い出し・・・ゾクリと凍りつくような寒気をおぼえていた。
(・・・人間って、あんなに「豹変」できるものなのか・・・。関谷さん、まるで別人のように乱暴な口調になってたし。初対面での印象なんて、まったく当てにならないんだなぁ・・・一つ、「勉強」になりました。)
茂が貴重な「悟り」を開いているのもつかの間・・・今宵、さらなる「試練」が、彼を待ち受けていたのである・・・。




