第62章:屈辱の酒宴・・・根岸氏のフォロー
根岸氏に尻を叩かれる形で席を立った茂は・・・飲みかけの、半分入ったビール瓶を持って、関谷氏のもとへ。
「よおよお、杉山君! わが食糧事務所の期待のホープ・・・うわさの『色男』! にくいにくい!!」
関谷氏がそう一声を放つと、茂はうやうやしく、箱膳に置いてある、関谷氏のコップに注ごうとした。
「待て待て待て。・・・杉山君。俺はまだ、『食事中』なんだぜ。見なよ。ほとんど手をつけちゃいねえだろ? 鍋のフタだって、開けてもいねえ。」
「はい・・・?」
「ちと待っとけや。俺が『食事』を終えるまでよぉ。」
関谷氏はそう言うと、無言で膳の「酢の物」やら、「豆腐」やらの食材を、むしゃむしゃと食する。
そのうちに彼は、隣のU支所の同僚と雑談に入り、目の前の茂の存在を無視するかのように、ときどき鍋に箸を伸ばす。
(・・・関谷さん、いったいどういうつもりだろう? いつまで、こうして俺を待たせる気なんだ・・・。)
しびれを切らした茂が、関谷氏の席から離れようとした、まさにそのとき!
「杉山ぁ! どこへ行く気だ、てめえ!! まだ、俺への勺が済んでねえだろうがよ!!」
「でも、関谷さん・・・いつまで僕を・・・」
「『待たせるつもりなんですか?』ってか。そう言いてえのか、コラ。」
「いえ・・・あのぉ・・・。」
「杉山よ。てめえ、俺を何だと思ってやがんだ・・・ああ?」
「何って・・・。」
「まあ、座れよ。・・・座れってんだよ!!」
茂が、わけのわからぬまま畳に座り、途方にくれていると、関谷氏が続ける。
すでに、場の空気が凍りつき、会場のメンバー全員が、二人のなりゆきを見守っている。
「杉山よ。おめえ、いまいくつだ?」
「22歳です。10月には、23になりますが・・・」
「ハタチは越えてるんだよな? だったら、『常識』ってモンが備わっててもおかしくねえわな? ああ?」
「・・・・・・。」
「まあ、いいや。でもよ、新人なら新人らしい態度、立ち振る舞いってもんがあるよな? OK! 俺も悪かった。どうも、『ハンサムくん』ってのはぁ、どいつもこいつも、オツムてんてんが多いらしいからなぁ! じゃあよ、俺から、そんなハンサムボーイに、うれしい贈り物があるぜよ。」
パシャッ!
箱膳のコップに残ったビールが、茂の顔めがけて飛んできた。
「・・・なにするんですか!?」
「お・・・やるのかよ、てめえ。おもしれえ、相手になろうじゃねぇか!」
「いくら先輩だって、やっていいことと・・・」
「『悪いことがありますよ』ってか・・・? つまり、そう言いてえのかな、オツムてんてん君よぉ。」
「不愉快だ・・・僕は帰る!」
茂が憤然として会場をあとにしようとした、そのとき。
根岸氏が茂の右肩をつかんで振り向かせ、こうささやいた。
「・・・杉山君、だめだ! いま部屋に帰ったら、もっとひどいことになる!」
「でも、根岸さん。悪いのは、アッチじゃないですか!? 何もしてないのに、なんでビールなんか、かけられなきゃいけないんですか・・・?」
「とにかく・・・いまはこらえてくれ! 僕も関谷さんに謝るから。お願いだから、そうしてくれ!!」
「嫌ですよ! 僕は帰りますからね!」
「いいかげんにしろ!!」
バシッ!!
今度は、根岸氏のビンタが、茂の右頬を捕らえた。
「・・・杉山君、ぶったりして、すまなかった。関谷さん、杉山君を許してやってくれ。たぶん彼は、飲み会の『常識』『しきたり』ってヤツを知らなかっただけなんだ。悪気はないんだよ。このとおり、僕からも謝罪させてくれ・・・。」
そう言って根岸氏は、畳に倒れ込んだ茂の横で、土下座をし、関谷氏の前に両手をついた。
「・・・まぁ、根岸君。今回は君に免じて許すがよ・・・杉山、今度、『非常識』な行動とったら、ビンタじゃすまねえからな。覚悟しておけよ。分かったら、部屋へ戻れ!」
そうして茂は・・・まだわけのわからぬまま、ニヤニヤとほくそえむ桑川をちらりと横目で見、根岸氏に背中を抱かれながら、ヨロヨロと会場をあとにした。




