第61章:飲み会スタート! 嵐の前の静けさ
茂が、根岸氏と「新人歓迎会」兼「懇親会」の大広間の畳部屋に入ると、すでに青年部の面子が自分の指定された席に収まり、ガヤガヤと雑談していた。
奥のひな壇の上には、高々(ただだか)と横断幕が掲げられている。
『平成五年度 第XX回青年部懇親会』
茂は、自分の所属する「検査課」のメンバーの指定席に納まった。
右隣には、根岸氏、左には「佐藤新太郎」が鎮座する。
そのうちに、人事係の関谷氏が、冒頭の「ご挨拶」を放つ。
「え~、このたびは、第XX回青年部オルグを無事、挙行できましたことを、皆様とともに、喜びたいと思います。私たち青年部は、『農業再建』という、輝かしいスローガンを掲げ、これまで・・・」
関谷氏の演説をしばらく聞き入った茂は、彼の弁舌ぶりに感動し、彼の表情、身振り手振りの見事さ、よどみない口調・・・こういった、自分にはまだ備わっていない要素に、尊敬の気持ちで持って、あこがれのまなざしを向けていた。
(・・・さすがは関谷さんだ。人を選ぶ、重要ポストの「人事係」を任されているだけのことはあるな。この人も、俺の大きな味方になってくれそうな気がする。)
そう考えながら茂がふとななめ右方向の席に目をやると、例の桑川と目が合った。
桑川は、一瞬厳しい視線を茂に送ったが・・・すぐに、不敵な笑みを浮かべ、視線の対象を、演説者の関谷氏に戻した。
「・・・皆様、今回の懇親会には、二人の前途と才能溢れるフレッシュマン、桑川君と杉山君も参加されております。どうか、お二人に盛大な拍手を・・・! そして、わが青年部のさらなる発展を祈念して・・・乾杯!」
会場に鳴り響く拍手がおさまると・・・それぞれ、隣り合った席どおしで、ビールの注ぎあいが行なわれ・・・乾杯セレモニーは終わった。
茂も、根岸氏に注ぎ終えたあとは、自分に用意された箱膳に目を移し、仲居のおばさんが点火してくれた鉄なべを開けて、中の具財を確かめる。
・・・どうやら、彼の嫌いな魚は入ってなさそうだ。
そうしてしばらくすると、会場の人の往来が激しくなり始めた。
茂が、ようやく煮えた、なべの「鶏肉」やら「牛肉」をつまんでいると、根岸氏に忠告された。
「・・・杉山君。食べるのもいいけど、肝心なことを忘れてるぜ。」
「肝心なこと・・・ですか??」
「周りをよく見てごらんよ。みんな、自分のお膳の食べ物には、ロクに手をつけないで、勺に回ってるだろう? ほら、うちの佐藤君だって、仁井田君だって・・・キミと同期の桑川君も、関谷さんにビールを注いでるじゃないか。杉山君も、早く関谷さんのところに行ったほうがいいよ。」
「・・・でも、根岸さん。ビールなんて、飲みたい人が自分で注げばいいじゃないですか。人数分、箱膳の横に置いてあるんですから・・・。」
「とにかく今は、僕の言うとおりにして。さ・・・早く!」




