第60章:根岸氏の忠告
部屋に入ると、佐藤、仁井田の二人が窓際で将棋を指し、少し年長の根岸氏が、TVの前に鎮座し、ニュースを観ていた。
この三人は、前にも書いたように、「検査課」の同僚で、佐藤は茂の正面の席、そして、仁井田と根岸は、その奥の席に、それぞれ場所を頂いていた。
TVを観ていた根岸氏は、茂と目が合うと立ち上がり・・・部屋から出ようとして、振り返った。
「・・・杉山君、ちょっと。」
根岸氏はそう言いながら、茂に「手招き」の「ブロックサイン」を送った。
部屋の外に出た二人は、さきほど茂と桑川が座っていた、竹のベンチまで戻り、並んで腰掛けた。
「根岸さん・・・僕に、何の御用でしょうか・・・?」
「杉山君、自分は、まわりくどい説明は嫌いだ。だから、手短に警告しておく。・・・今夜の飲み会、大いに覚悟しておいたほうがいい。」
「・・・はい?」
「これは・・・実は、ただの飲み会じゃないんだよ。これで、何人の新人がつぶされて、辞めていったことか。」
「よく分からないんですが・・・ようするに、『出るな』って、そうおっしゃりたいんですか・・・?」
「いや、そうは言ってない。『出ない』という選択肢は・・・残念ながら、キミには無い。なぜなら、今夜の飲み会は、君たち新人のための『歓迎会』なんだからね。主賓は・・・キミと桑川君の二人なんだから・・・。」
「根岸さん・・・いまだによく分からないんですが、よく分かりました。何に気をつければいいのかも、本当はまったく分かっていないんですが・・・。」
「僕も、できるだけ杉山君をサポートはする。・・・安心しろ、とは保証できないがね。」
「はい。ありがとうございます。根岸さんには、いつも良くして頂いてますから・・・。」
実は茂は、朝の「お茶汲み」と「机の雑巾がけ」を、少し寝坊した朝に、漆原めぐみ同様、この根岸氏に、代わりにこなしてもらっていた、という恩義があったのだ。
普段は無口で、めったに感情を表に出さない、非常にクールな先輩だったが・・・あの「森川検査部長」「蛭田管理官」、前述の「漆原めぐみ」と並び、茂にとって、第四の陰の協力者・・・そして、頼もしい「味方」でもあった。
そして、このあと茂は・・・生まれて初めて、「飲み会」という席におさまることとなる・・・。




