第59章:風呂上がりの一幕
この晩・・・風呂から上がった茂が、吹き抜けの通路に設置してある長い竹のベンチに腰かけ、自販機の麦茶を一杯やりながら、ほてったカラダを涼ませていたときのこと。
例の悪友、桑川も、ちょうど風呂からあがり、茂の座るベンチに並んで腰かけ、肩に腕をまわしてきた。
「・・・桑川、何のマネだよ。」
「あ・・・?」
「暑苦しいなぁ・・・離せよ。」
「いいじゃねえか、スギヤマくん。」
「おい、マジで気持ちわりぃから、よせって。おまえ・・・もしかして、ホモかよ??」
「失礼なこと、言うねぇ・・・スギヤマくん。仮にも俺は、キミの同期なんだぜ。『同期の桜』ってヤツよ。」
「あのな、桑川。いったい、何があったんだ・・・? どういう風の吹き回しなんだよ。いままでお前が、初対面以来、ただの一度だって、俺を呼び捨てにしなかった日はなかったのに。いつもどおり、『スギヤマ』でいいよ。」
「なぁ、スギヤマくん。今のうちに、この俺に謝っておいた方がいいんじゃねえのか・・・?」
「なに?」
「俺様だって、鬼や悪魔じゃねえんだからよ。いま、土下座して謝ってくれるんだったら、そこらへん、考えてやってもいいんだぜ。・・・俺本人が、こう言ってるんだからよ。別にカネよこせって、脅してるわけでもねぇしな。」
「だから、何の話だって訊いてんだよ。・・・まゆちゃんの件か?」
「まぁ・・・まゆみのこともあるがよ。おめえ、自分の胸に手を当てて、よく考えてみな。おのずと答えは出てきそうなもんだがな。」
「・・・悪いが、さっぱり分からねえな。」
「そうかい。じゃあ、あとで後悔するなよ、おぼっちゃま。モテモテの色男くんよぉ。」
「ああ。じゃあな、『クメカワ』くん。」
茂がそう告げて、チクリと刺すと・・・桑川は、一瞬、悪鬼のような目つきで彼をにらみ、すぐに不適な笑みを浮かべて、ベンチを去った。
(・・・桑川のヤツ、いったい何をたくらんでるんだ?? やけに自信たっぷりな態度と、どこか、開き直ったような雰囲気だったよなぁ。俺への『報復』の準備段階に入ったっていうのか・・・? それは、もしかして・・・)
茂が自室に戻ろうとして、ふと、桑川が戻ったであろうU支所の若い連中の部屋の表札に目をやると・・・そのひとつ・・・桑川の氏名が間違えて書かれた、例の『粂川公広』の紙の表札が、ボリボリに破り捨てられ、通路にバラバラに散らかっていた。




