第55章:やはり、謎だらけの女・・・『あや』
この夜も茂は、最近、あやから教わった、「特等席」である、「63番テーブル」に座った。
この席は、通路から奥まった角の席に位置し・・・より「暗がり」になっていて、周りの客からは、ほとんど見えない構造になっていた。
そのため彼女を指名するほかの客たちも、好んでこの「特等席」を目指し、しのぎを削る・・・そのような、ちょっとした「競争」も、ときには見られた。
茂自身もまた、いつもその「63番」の席を確保できるとは限らず、通路をはさんだ正面や、ななめ方向の客席から丸見えの席に甘んじることもしばしば。
この店は、口唇での性的サービスを売り物とした、いわゆる「ピンクサロン」の業種形態となっていて、「本番行為」・・・つまり、店内におけるセックス、及び、客とホステスとの個人的な恋愛、店外でのデートや付き合いを、固く禁じていて、違反者には、多額の「罰金」と「出入り禁止措置」の制裁が課される仕組みとなっていた。
この「本番行為」は、ソープランドなどの合法的に認められた店舗を除いては、いわゆる「風営法」でも禁じられており、これを行なわせる店も、警察からの罰則と営業停止措置の憂き目にさらされるため、客とホステスの「本番行為」を店側でも細かく監視し、通路では、男子店員が行ったり来たりと歩きながら常に目を光らせていた。
もちろん、その「ソープランド」においても、コンドームを装着しない、いわゆる「生本」は、令和の現在でも、固く禁じられている。
もちろん、茂とあやのふたりは、いくら奥まった、監視の目の届きにくい特等席におさまっていたとはいえ、「本番行為」の愚行を犯すことなど、するはずもなかった。
この店での客とホステスのやり取りの流れとしては・・・初来店の客でもない限りにおいては、いきなり口唇による「サービス」が始まるのではなく・・・まずは、席についたホステスと客が、たわいのない世間話や雑談を交わしたあと、気分が出てきたタイミングにて、おもむろに「サービス」に移行する・・・このような流れになっていた。
おおかたの客は、紳士的にホステスと接し、仲良く雑談し、おとなしく「サービス」を受け、スッキリとした気持ちで、素直に帰宅していた。
しかし中には、酔った勢いで、集団で入店する荒くれどももいて・・・特に「深沢社長」が不在の日にソレは多かったのだが、ホステスにからんで困らせたり、強引に店外デートに誘ってみたり、口唇での「サービス」の際、乱暴にホステスの頭を片手で押さえつけ、無理やり上下させる・・・このような迷惑行為が見られることもあった。
もちろん、茂は、そのような「暴挙」に出る理由も、おかしな「ご乱心」もなかったので、あやと雑談したあとは、彼女からの「濃厚な」サービスをたっぷりと、心ゆくまで楽しんで、帰宅していた。
帰り際・・・ドアを出て、明るい照明のもとで初めてあやの「素顔」をじっくりと見た彼は、この「美絵子」そっくりの彼女にも、「違い」があるのに気がついた。
たしかに、あやは・・・亡くなった恋人、「峯岸美絵子」に瓜二つに見える。
しかし、よくよく見てみれば、どこか「本人でない」ところがある。
気味の悪いほど、「美絵子」と似ている「あや」。
それはまた、単なる「他人のそら似」とは片付けられない、重要な「なにか」・・・あるいは「秘密」というものを茂に感じさせてもいた。
ともあれ、この新たなパートナーに出会ってからの彼は、日々、心に「張り合い」というものが生まれ・・・かつて自分が愛した「美絵子」との、あのときめくような、そして、会うごとに、胸がキュンと切なくなり、ドキドキした、あのあまりにもなつかしい感覚をも、心に、カラダによみがえらせていたのである。
そうして茂は・・・まさに「美絵子の再来」ともいうべき、新しい「パートナー」との関係を、会うたびに深め、互いの距離を少しずつ縮めていきながら、日々のつらく、厳しい業務と向き合うのであった。




