第53章:当時の繁華街と茂の心境
茂は、火曜ごとに、あやに会いに行った。
この店の、火曜の早い時間帯には、茂が通うようになってからは、なぜか指名客が少ないか、まったくおらず、必ずといっていいくらい、「いの一番」で、あやが彼の席についてくれたからだ。
彼は、あやに会う予定の日の、火曜午後5時に業務が終わると、そそくさと帰り支度をし、まっすぐに店を目指す。
「食糧事務所」から「パラダイス・キャンパス」までは、徒歩でおよそ30分ほど。
茂は、その間、きまってU市中心街の「オリオン通り」を抜けて歩き、目的地を目指す。
朝も彼は、U駅から事務所までは、徒歩で30分の通勤をしていたが、ときには、U駅発のバスに乗ることもあった。
しかし、満員バスでの他人の「ニオイ」にムカムカしたのと、ときどき出くわす同僚や先輩、上司との面倒な「コミュニケーション」にうんざりしていた彼は、なるべく食糧事務所の職員が使わない徒歩ルートを選択し、少し遠回りで往路をゆく。
行きも帰りも、この「オリオン通り」を通過するわけであるが・・・ここの風景は、朝と夜とでは、まるで違う「貌」を見せていた。
朝の通勤時間帯には、まだ多くの店舗がシャッターを閉め、アーケードの屋根がついた通路には、通勤のスーツ姿のサラリーマンやOL、中高生たちの自転車のおびただしい群れが、硬い表情で、ほぼ会話も無く、ひたすら自分の目的地を目指す。
しかし、夕方以降ここを通ってみれば・・・通路は活気を帯び、化粧品店やハンバーガー店、たこ焼き屋や書店、CDショップ、楽器屋、さまざまなサブカルチャーグッズの販売店などが明るい照明で通行人を出迎え、いざない、通行する者たちも、サラリーマンやOLだけでなく、高校生や主婦、下校のランドセルを背負った小学生たち・・・さまざまな種類の人間が、あるいは店に立ち寄り、あるいは、脇目もふらず、そそくさと駅を目指す・・・こういった風で、それぞれの生活にいそしんでいた。
茂は、夜の「オリオン通り」が好きだった。
自分の住むY市には見られない、さまざまな、最先端の流行りの商品に触れられるのはもちろん、田舎のY市の人間の種別とはまったく違う、香水の利いた、おしゃれなファッションに身を包んだ女性たちに出くわすことができたためであった。
・・・とても華やいだ気分、感覚、そして、高揚感。
こうした、これまで味わえなかった「人工的な風景の妙」に圧倒され、刺激されつつも、やがて彼は、目的地の「パラダイス・キャンパス」へ。
たいてい、開店前の午後6時には到着するので、茂は、一階ガレージの奥にある「待合室」へ。
ここは、建物の構造上、三角形の形をした狭い部屋となっていた。
この部屋と蛇腹シャッターで仕切られて、隣の部屋が、ここのホステスたちのロッカールームである。
この狭い三角形をした待合室で茂は、開店時間までのしばしの時間を、わくわくしながら、あるいは、緊張しつつ・・・かかっているTVニュースの映像や、置かれている女性週刊誌、アダルト雑誌などを眺めながら過ごすのであった。




