第38章:頼もしい先輩・・・世話女房、めぐみ
この「検査部」の大部屋には、茂が所属する「検査課」の他に、「統計課」という部署も、同じ部屋に入っていた。
この「統計課」には、玄関先で挨拶を交わし、茂を親切に案内してくれた小柄な女性職員も在籍していた。
彼女は、名前を「漆原めぐみ」といい、農作物の「統計管理業務」にたずさわっていた。
席は、茂のすぐうしろ・・・背中合わせの真後ろが彼女の席となっていた。
めぐみは、茂や桑川と同学年の、当時23歳。
高校卒業前に公務員試験を受け、18歳でこの「食糧事務所」の一員となった、茂にとって、五年先輩の女子職員だった。
その器量は・・・おせじにも「美人」とはいえなかった。
彼女には失礼な物言いかもしれないが・・・まずはやっと「十人並み」といったところだろう。
しかし彼女は、茂が初日からやらされていた「お茶汲み」のときも、自分の席を離れて、いっしょに準備してくれたり、事前にお湯を沸かしておいてくれたり、朝の出勤時の机の「雑巾がけ」を、彼が入室する前に、彼の代わりに済ませておいてくれたりと、いろいろと細かい日常の場面で、彼を優しくサポートしてくれた。
小柄で一見おだやかそうな彼女であったが・・・ときには、まだ新人の茂に対し、あえて厳しい苦言も提す・・・このような「裏表のない」頼もしい先輩でもあったのだ。
残念ながら、こうした、いわば「世話女房」的な彼女に対し、茂には、「恋心」という感情は芽生えてこなかったのである。
彼はあくまでも彼女を、「先輩」「同僚」としてのみ、認識していたのであった。
それはたぶん、いまだ彼の中に、かつての恋人・・・亡き「峯岸美絵子」という大きな存在が、深く深く、根をおろしていたということも影響していたのだとは思うが・・・。




