第37章:けん制し合う二人
小会議室で、お互いに心中で憎悪をたぎらせ、けん制し合いながら並んで座って説明を受ける、茂と桑川。
人事担当の関谷から説明を終えた二人は、それぞれ資料を渡され、お互いの担当部署に移動していった。
桑川は、四階にある「U支所」に。
この支所は、県内各地に設置された、いわば「出張所」のようなもので、当時、T県では9箇所の市町村に設置されていた。
この建屋の中には、そういったことから、茂たちが業務を行なう「本所」と「支所」が混在する・・・そのような構造になっていたのだ。
茂は、検査課の「指導係」という担当となった。
この係は、主として、T県各地で実施される、穀物の「国営検査」の検査数量を記録・管理する業務にたずさわっていた。
彼に割り当てられた座席は、検査課の入り口から入って、すぐのところ・・・イメージ的には、すぐ右手の角の座席、といったところか。
彼の左隣の席では・・・直属の上司となる中年男性が、タバコをふかしながら彼を迎えた。
茂が挨拶をしておじぎをすると、その中年男性は、先ほどらいと同じような、うさんくさそうな上目遣いで、眼鏡越しにジロリと彼を見ると、ニンマリといやらしい笑みを浮かべ、こういった。
「お、新人さんだね。よろしゅう。君が杉山さんか。私は、『武村』。『武村久夫』ってんだ。指導係長が役職名だ。」
「杉山です。よろしくお願いします。」
茂がこう言っておじぎをすると、武村は、こう返してきた。
「君は『なに年』だい・・・? 戌年・・・ほうほう。実はね・・・私も戌年なんだよ。奇遇だねぇ。それじゃあ、お互い、犬みたいに噛み付きっこしないようにしましょう。」
茂は思った。
(この怪しげな男・・・いきなり嫌なこと言うじゃないか、初対面なのに。『噛み付きっこ』ってナンだよ。同じ『戌年』ってことは、俺よりも12歳年上ってことだよな。この嫌な雰囲気のヤツが、俺の最初の上司かぁ・・・。なんか、とてつもなく嫌な予感がするよ・・・。)
・・・ 不幸なことに、彼の予感は的中していたのである。
この武村という上司・・・のちに、あの桑川以上に、茂にとっての「天敵」となり、その後の彼の人生に暗い影を落とし続けてゆくことになるのだ。
もちろん、その時点では、茂には、そのようなきびしい現実というものを具体的に頭に描くことなどできようはずもなかった。




