第33章:漆原めぐみ
茂が配属されたのは・・・農林水産省の、出先機関だった。
名称を「食糧事務所」といい、令和の現在、もう廃止・解体されて存在しない組織なのだが、1993年当時、その組織は、T県U市中心部からやや南の、U市役所の北側に位置する四階建てのビルにあった。
・・・もっと正確に言えば、そのビル全体が、「食糧事務所」として機能していたのだ。
茂が緊張の面持ちで新しい職場への道を歩いていると・・・スーツ姿のOL風の女性たちが、カツカツとハイヒールの靴音を響かせ、無表情でそそくさと建物に入っていき・・・職員とおぼしき男たちが、申し合わせたように首もとのネクタイをいじりながら、続々と建物の中に吸い込まれていく。
あたりまえのように入ってゆく職員たちに混じり、気後れしたような「及び腰」で入館した彼は・・・自分の配属場所の部屋の位置もよく分からず、一階のトイレと玄関を、ひとりおろおろしながら、いったりきたりしていた。
「・・・あのぅ、職員の方ですか?」
そう話しかけてきたのは、小柄な若い女性職員だった。
「はい。わたくし、本日よりお世話になります、杉山・・・杉山茂と申します!」
茂が、緊張でガチガチになって、直立不動の姿勢でかしこまり、顔をこわばらせながら大声で答えると、その女性職員は、くすっと笑い、彼を担当の部署に案内してくれた。




