第32章:まゆみとのあらたなる関係
「・・・杉山さんじゃないですか! 元気でした??」
「おお、柳原さん! 君もどうしてた・・・? 元気だった?」
「はい。とっても元気。いまから、農業大学校に行くトコなんですヨ。」
「あれぇ・・・柳原さんって、車持ってなかったの? 寮生活終わったんだから、二年生は、みんな車で通うんだろ?」
「あたし、免許無いんですヨ。だから、JRとバスで通うほかないんです。」
「そっか・・・。僕も電車で通勤なんだ。初出勤・・・いまから、ゆううつだよ。」
あの「告白」以来、ずっとお互いに気まずくなり、話すことも、目を合わすこともなかったふたりだったが・・・こうして、外部で再会してみると、やはり、同じ学校に通っていた「情」というのか、「親近感」のような感覚が生まれて、知らず知らずに、その「気まずい空気」というものは、ふたりから消えうせていた。
「杉山さん・・・公務員試験受かったんですよね! ・・・すごいなぁ。あとひとり、『桑川さん』っていう人も、受かったんですよね。・・・でも、あたし、あの人好きになれないです。とっても冷たい目つきで、いじわるそうですもんね。」
実は茂には、「桑川」という同級生の男子学生がいて、彼もまた、公務員試験に合格し、茂と同じ職場に配属されることになったのだった。
「・・・ああ。僕もね、あいつは嫌いなんだ。実習のときね、田んぼで俺に、子供みたいに泥を投げつけてみたり、何もしてないのに、長靴で蹴ってきたり・・・とにかく幼稚で嫌なヤツだった。よくあいつが、試験受かったなぁって、毎日不思議に思うよ。」
「きっと、カンニングでもしたんですよ。茂さんは、しっかり勉強したから、受けるべくして受かった・・・あたしは、そう思ってますけどね。」
「かもね。・・・あれ、柳原さん、いま、僕を下の名前で呼ばなかった・・・?」
「え・・・? そうでしたっけ?? でも、あたしだって、ぎょうぎょうしい苗字じゃなくって、杉山さんのこと、『茂さん』って呼びたいです・・・。」
「そっか・・・。いいよ、それで。そんじゃ僕も、『まゆみちゃん』って呼ぶことにしようか。」
「なんか、言いにくいですよね・・・あたし、『まゆちゃん』のほうがいいです。」
「お・・・U駅に着いたぞ。でもさ、まゆちゃん、まいんちコレじゃあ、これからたまんないよね。」
「そうですよねぇ・・・。でも、あたし、車持ってないし。」
「僕もあるっちゃ、あるけど・・・お袋の車だしね。」
「茂さん・・・これからも、こうやって、あたしと電車通勤してもらってもいいですか・・・?」
「えっ? ・・・僕はかまわないよ、君がそう言うなら。」
「ありがとう、茂さん。朝の楽しみが出来ました。じゃ、あたし、バスに乗るので、これで。」
こうしてふたりは・・・一度壊れた関係を元に戻し、毎朝、仲良く通勤・通学するようになったのである。




