第228章:帰郷への長い道のり(1)
ふたたび、『富士急行線』に揺られる茂。
静かな車内。
・・・乗客がそこそこ乗っているというのに、不気味なほど、みなおしだまって、お互いに話そうともしない。
どこか、よそよそしくも感じられる。
さきほどまで、「樹海の誘惑」に取り憑かれ、死のにおいというものが全身にただよっていた彼を、どこか避けているようでもあった。
もちろんそれは、茂の錯覚にすぎない。
だれも・・・ここにいるだれもが、茂の素性や過去、そして、この列車にこうして揺られている理由やいきさつ、事情といったものなど、知るはずもないからだ。
彼は、心底疲れきっていた。
ふと、車外に目がいく。
真っ暗な風景。
最初にこの列車にふらふらと吸い込まれるようにして乗り込んだ時分の、昼間の明るい風景は、そこにはなかった。
・・・そこにあるのは、ただただ、闇の世界。
ひたすら暗い、まっ黒な奥ゆき。
何度も長いトンネルを抜けるのは、来たときと同じだが・・・ときおり、田園地帯に点在し、視界のうしろへとどんどん流れてゆく家々のちいさな明かりさえも、このときの彼の目には映らなかった。
『大月駅』に到着したとき、もう最終電車が出てしまって、茂は帰宅する手段を失った。
所持金は・・・そして帰りの交通費は、来たときにかかった運賃の総額とほぼほぼ同じくらいで、ギリギリの額になっていた。
近くにビジネスホテルや簡易宿泊施設も見当たらず、仮にあったとしても、これではどこにも泊まれない。
その夜の「居場所」を失った彼は・・・気がつくと、国道20号線・・・すなわち、いにしえの『甲州街道』の路上を、一路、東京方面に向けて、歩き出していた。




