第220章:『黄泉の世界』へといざなわれて・・・(1)
栃木県にある『JR石橋駅』。
国道4号線(従来のもの)より少し東に位置するこの駅。
この駅前通りの夜景は素晴らしい。
オレンジ色の街路灯のきらめきが宵闇をやわらかく照らし・・・それは幻想的な空気を産みだす。
きっと・・・地元の石橋在住の皆様には、誇らしい『夜の景勝地』と映っておられることだろう。
だがこの風景というものは・・・杉山茂という人間にとっては、いまも思いだしたくない、特別な、さしせまった事情というものでもない限りにおいては、できれば・・・いやさ、二度と生涯近づきたくない、彼個人にとっての、いわゆる『禁足地』のひとつとなっている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
2007年11月上旬。
茂は、病院実習のこの日の「ノルマ」を終えた、学校のクラスメート数人と、『JR石橋駅』西口プロムナードを、駅に向かって歩いていた。
実習をそつなくこなし、満足気な表情で、明るく談笑しながら、軽い足取りで進む仲間たち。
きょう、自分が担当した患者様についてのエピソードやら、次の休日のレジャーの予定やらの話に、嬉々(きき)として花を咲かせている。
茂一人を除いて・・・。
日々の病院実習の看護技術の実践の場でのさまざまな困難というものを実感し、自分の能力のなさ、メンタルの弱さ・・・こういったものを痛感し始めた彼はまた、次のような厳しい現実を意識しはじめてもいた。
(俺は・・・どうも、この看護という分野の仕事には向いていないかもしれないな・・・。)
病院での実習というものは、当然だが、近い将来、国家試験合格後に実際に病院勤務となってから必要になる、重要かつ貴重な「プレ病院勤務」「模擬医療行為」といった位置づけとなっている。
学校での「座学」では、問題なく首席だった茂も・・・この「病院実習」においては、仲間から遅れを取り、だれの目から見ても「劣等生」そのものであった。
しだいしだいに孤立し・・・おかしくなっていく茂。
実は彼は、この看護学校に入学してからの、「悪い思い出」「悩み」といったものを、中岡葉子にも、そして遠山里香のどちらにも詳しく知らせることなく、ひとり抱え込んで苦しんでいたのである。
(余計な心配はかけたくないからな・・・。)
そんなある朝・・・茂はついに、『心の緊張の糸』がプツリと切れてしまうのである・・・。




