第216章:ゆれる茂の心中(1)
・・・茂はくやしかった。
かつて自分と燃えるような恋をし、永遠の愛まで誓い合った美絵子・・・その彼女の『生き写し』のような、誰よりも大切な葉子が、汚されてしまった・・・
葉子には葉子なりの、やむにやまれぬ事情というものはあったにちがいない。
それは茂も十分理解していた。
「使途不明金」・・・つまり、使い道がわからない支出をたびたび茂に求め、デートと見せかけて、寿司屋にたくみに彼を誘い出し、『用件』『目的』が済むと、さっさとひとりで帰ってしまった葉子。
「店外デートは禁止されているから・・・」という大義名分のもと、初めて会ってからというもの、いままで10年以上も、一回の「呼び出し」を除いて、デートはおろか外では「1秒たりとも」会ってさえくれなかった葉子。
14年3ヶ月も会っていなかった遠山里香が、新聞にて茂が逮捕され警察署に勾留されているのを知り、差し入れ片手にわき目も振らず飛んできて、それから毎日毎日面会に来てくれる一方、一度たりとも茂に面会に来てくれなかった葉子。
今回、突然連絡を絶ち、気がつけば、一度も自分に相談することもなく、いつのまにか勝手に『生尺店』なんぞに移ってしまった葉子・・・。
主義主張に一貫性も説得力も無く、自分勝手でわがままで、自由奔放に、茂の人生を「マイペース」で振り回し、とことん翻弄してきた『中岡葉子』という女・・・。
この期に及んでも茂は、どうしても彼女を憎むことができず、離れることが出来なかった。
(なぜだろう・・・ほかにいくらでも、俺を好きになってくれて、素直にデートしてくれるような優しく魅力的で誠実な女性がいるのに・・・。身近には、遠山里香ちゃんだって・・・。)
それはもしかしたら・・・葉子の勝手きままな態度と振る舞いに「これでもか!」というくらい泣かされながらも、茂には、葉子の内に秘められた『真の優しさ』『あたたかさ』『心の奥深さ』といった、普通の女性にはなかなか会得することのできない、本当に本当の大いなる魅力というものを、彼女の中に見いだし、強く強く感じていたからなのかもしれない。
一見『淡白』で、茂のことなど、そこらへんの「石ころ」か「投げ捨てられた吸いがら・空き缶」ぐらいにしか認識していなかったかのように見える彼女も・・・実はこのあたりから、その『本当の魅力』というものを、茂だけに見せてゆくようになるのである・・・。




