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第213章:『S看護専門学校』(19)

 ここで、例の看護学校内の『定期試験』に関する話題に触れよう。


 試験が近づくにつれ・・・学生たちの様子が変わり始めた。


 まるで、夏休みの宿題をやっていなかった小学生が、休みの終わりごろにあわてて親に泣きつく、アレである。


 その夏休みというものも、茂たちがまだ看護学校の一年生ということもあり、担任の加藤先生の独自の方針で、「夏休みの宿題」というものは、いっさい出されなかったのである。


 さきに茂が「熱中症」で倒れた体育館内で、「野村君」が意味不明な『タコ踊り』で浮かれていたのは・・・実は、そういった裏事情もからんでいたからなのだった。


 ホームルームで加藤先生は、たびたび茂たち学生にこう釘を刺していた。


 「あなたたちは・・・今回入ってきた学生は・・・例年と比較しても、本当に学力のレベルが低いです。このままの調子で最後まで行ったら・・・『国家試験』に受かるのは・・・もしかしたら、たった3名だけかもしれませんね。まぁ・・・そうならないように、いまから手綱を引き締めておくことね。」


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 定期試験では・・・それぞれの科目の授業の中で、「出題内容」が明示される。


 ・・・つまり、出される範囲が、とてつもなく明確に示されるのだ。


 そんなこともあり、授業中寝ていたり、うわのそらで講師の話をアホづら下げて聞き流していた学生たちは、まじめに聞いていたり、「出題範囲」をきちんと記録していた学生に「泣きつき」・・・場合によっては本当に情けないハナシなのだが・・・「有料」でそれら情報を模範生から買ったりしておったのだ。


 こういった、『優等生から試験についての情報を金で買う』という行為は、なにもここだけに限ったことではない。


 あの「東大」でも、ごく普通に、日常的に行なわれていると聞く。


 もちろん、心の広い茂は、授業中、常に「おやすみあそばされていた」不真面目学生の見本のような野村くんにも、無料で快く、試験内容の情報を提供していたのであった。


 熊田君は、また若かったので、「フン。寝ていたヤツに、貴重な情報なんかあげねぇよ。甘ったれんじゃねぇ!」といった感じで、誰にも情報は与えなかった。


 しかし、茂も前田さんも、「オトナのたしなみ」といった様子で、教えを乞う学生には「来るものは拒まず」の精神でもって、太っ腹で、彼らが求める情報をすべて提供してあげた。


 さらに茂は・・・全員分の『暗記用資料』・・・とっておきの『秘密兵器』まで、にっくき「斎藤」や「坂主」・・・さらには、自分に冷たい視線を初日から送ってきていた女子学生にも、わけへだてなく、エコひいきすることなく自作し、この強力かつ即効性のある『新兵器』をクラス全員に提供した。


 読者の皆様はご存じだろうか・・・?


 赤い透明なシートで、教科書や参考書に印刷された「赤い文字」が消える仕組みの、あの「兵器」のことを・・・。


 茂はコレを、自らがPCで打ち、暗記箇所を「赤文字」で打って文章にすることで、手作りの「即興問題集」に作り変えて見せた。


 (※)実際には、「薄いオレンジ色」の文字で、隠したい「暗記文・暗記語句」を打ってあげました。赤だと、赤フィルターで完全に消えませんのでネ。この方式は、私が学校からいなくなったあとでも・・・のちに学生自身も、手書きの薄いオレンジボールペンの文字で「自作」し、大いに活用してくれてたようです。


 まさに「発想の転換」「応用のきわみ」・・・といいたいところだが、実際にこれが、どれほどの威力を発揮したのかは、賢明な読者の皆様には、容易に想像できると思う。


 この方法の最大の利点は・・・言うまでもなく、『その場で、おぼえた・おぼえてない、がハッキリとリアルタイムで分かる、判明する』ということである。


 この方式だが・・・記述式でなはない、「客観試験」や、語句や短文の穴埋め試験などで、特にその威力を発揮する。


 さらに、「出題項目」まで、試験前に明示されているのであるから、これほど効果的で、かつ即、役に立つ暗記用資料もあるまい。


 実際、茂が作ったこの「新兵器」で救われた学生は大勢いた。


 「生化学」の試験なんぞは、彼の作った資料の威力が最も発揮されて・・・なんと、全員が90点以上の好成績をおさめたのであった・・・!


 この試験が終わった後も茂は・・・この「暗記用新兵器」を、試験の前になると全員の机の上にこっそり置いてから帰宅していた。


 この新しい方式は・・・のちに自然と全員が「採用」するようになり、茂が中途退学でいなくなったあとも、後輩たちにも受け継がれて、いまでは当たり前の「試験対策法」のひとつになっているそうだ。


 茂が最もうれしかったのは・・・のちに熊田君から聞いた、ある学生の話。


 彼は「室井君」といい、日頃から「勉強の仕方がわからない」と嘆いていた。


 そんな彼が、実際の本番の『看護師国家試験』の際、頼りにしたのが、在籍時に茂がみんなに配った「暗記用兵器」の数々だったという。


 「熊ちゃん・・・杉山さんにお礼言っといてよ。俺・・・あの人が作ってくれた、あの『対策資料』のおかげで、国家試験受かったんだから・・・。」


 勉強が苦手だった「室井君」も、茂から、ひとつの「学習スタイル」を伝授・プレゼントされたことで、見事国家試験を一発でクリアした。


 ・・・影の努力家だった彼ならば、当然の結果である。


 さらにみんなは・・・茂が在籍時に大量に購入し、自己退学後にブックオフに売り払った、マジックで『杉山茂』と書かれた参考書を見つけ、みんなで金を出し合って購入し、それを国家試験の対策に使ってくれたのだった。


 熊田君によれば、そのときのみんなは、しんみりとこう言っていたそうだ。


 「けっこうそろってる! ・・・さすがは杉山さんね。実技や病院実習が無くって、教室の座学だけだったら、あの人、ものすごい『看護師』になってたのにね・・・。」


 それを熊田君から聞かされた茂が、うれし涙を流し、どんなに喜んで聞いていたのかは・・・読者の皆様も想像にかたくないであろう・・・。

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