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第212章:『S看護専門学校』(18)

 ・・・茂はこの日、生まれて初めて『熱中症』にかかった。


 皆さんもよくご存じかとは思うが・・・熱中症の原因の一つに、茂のような『寝不足』も挙げられる。


 前田さんが連絡し、かけつけた加藤先生と千葉先生に、救急車の中で心配そうに見守られながら・・・彼は一晩入院した。


 点滴(てんてき)を打たれ・・・呼ばれてかけつけた母の車で自宅へと戻った茂は・・・そのまま『夏休み』へ突入したのであった・・・。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 ・・・2006年9月。


 看護学校での『定期試験』を終えた茂は、ほっと肩をなでおろし・・・ひさびさに『峯岸美絵子』が生前住んでいたことのある、元・山田セツさん宅の方向に自転車で向かった。


 学校からこの家までは・・・そう。


 直線距離で、南へ2キロほどだったろうか・・・。


 家の前にたどりついた彼がそこで目にしたものは・・・すでに取り壊しが始まって、がらんどうになり、柱部分と屋根だけになった無残な家の姿。


 ・・・セツさんが亡くなって17年あまり。


 時子さんとかおりさんは、すでに日本国内にはおらず、アメリカに行った。


 美絵子もいなくなり、功さんも天国へ・・・。


 家の主(あるじ)を失った、かつての「我が家」で出迎える人は・・・もう、誰もいない。


 かつて、この家で繰り返されてきたさまざまな「ドラマ」の数々・・・そして茂は、この地で最愛の美絵子と、「今生の別れ」を・・・。


 気がつくと彼は、家の庭部分のコンクリートに座り込み、何時間もぼんやりと、あの日の美絵子の愛しい姿を恩ぃめぐらしていた。


 日が落ちて、あたりが漆黒(しっこく)の闇に包まれても、茂は動こうとはしなかった。


 彼にとって、『心のシンボル』だったこの家が、あとわずかな時間で、彼の中にかすかに残る記憶・感覚とともに失われてゆく、そのつらい・・・あまりにもつらく悲しい「現実」というものを、流す涙とともに噛みしめながら・・・。


 (もう・・・もうこれで、本当の意味での『お別れ』になっちゃうんだね・・・。でもね、家がなくなっても、僕は毎日君のこと思い出すし、いまだって思い出さない日はないんだ。また・・・またあとで来るからね、美絵子ちゃん・・・。) 

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