第208章:『S看護専門学校』(14)
このようにして、『美化委員』関連の嫌な思い出の出来てしまった茂は・・・このあとの「看護実習」でも、いまでも忘れられない、ある『ひと言』を思い出す。
こうした実技の前には、座学にて必ず事前学習というものがあるのだが・・・茂の面接の相手であった『千葉先生』の授業で、こんなことがあった。
入浴できない状態の患者様に対する『全身清拭』というケアがある。
これは、お湯で温めたタオルで、石鹸をタオルにつけ、少しずつ肌を拭いて差し上げる基本的ケアなのだが・・・いきなり患者様をバッと裸にしてやるわけではなく、少しずつ着衣を脱がせながら、患者様の体をなるべく外気・冷気で冷やさないように行なう、手順が多い、初心者には極めて難易度の高いケアであった。
このケアの基本理念・基本ポイントは、ズバリ、『不必要な露出をしないこと』。
千葉先生が言った、この『露出』という単語に、異常に反応した学生が一人いた。
先に紹介した、『斎藤』である。
彼は、当時21歳の、専門学校中退・再チャレンジ組である。
やせた体躯のうえに、異常に首が細長く、一重まぶたで、目つきの良くないスリムな青年。
その首の長さに目をつけた、茂の親友『熊田君』に、たびたび、『ちょっと斉藤君・・・キミィ・・・首長いっスよぉ!』などと、からかわれていたものである。
昔、英国王室で、『クラレンス・アヴォンデイル公爵アルバート・ヴィクター王子(通称:クラレンス公』という人が、その生まれつきの首の長さゆえに、「カラーズ&カフス)」などと妙なあだ名をつけられておったことがあるが・・・それをほうふつとさせるような、そんな『首長族様』なのであった。
性格も、どこか「底意地悪く」・・・社会復帰してがんばる茂を、かたくなに認めようとしない、狭量な男でもあった。
あとで触れるが・・・27歳の『坂主』も、茂の社会復帰を快く思っていない人物であったのだが・・・彼については、また斎藤とは違った「因縁」が茂とはあったので、もう少しあとで・・・。
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先に述べた、清拭の際の患者様の肌の『不必要な露出』をなるべく避け、寒い思いをさせずに、上手に全身をきれいに拭き清めてさしあげる、全身のケア・・・『全身清拭』。
「看護実技」の授業では、二人一組になり、もちろん男は男どおし、女は女どおしで組み、ペアで実技練習に当たる。
実は、事前学習の座学にて、千葉先生が、「じゃあ、皆さん。くれぐれも、『不必要な露出』を避けて、患者様に寒い、冷たい思いをさせないでね。」と言うと・・・茂の斜め前の座席にいた、例の『斎藤』が、いやらしい笑みを浮かべながら茂のほうを振り返り、こう言い放ったのだ。
「『不必要な露出』だってさ・・・露出を『不必要に』しちゃ、ダメだよね。ククク・・・。」
実技の際、この『斎藤』と組んだ茂は・・・そんな彼に対しても、ぶきっちょながら精一杯の「ケア」をし、時間がかかって汗だくになりながらも、そんな嫌な斎藤にも「寒い思い」をなるべくさせてはならんと自分にいま出来ることをまじめに、懸命に、精一杯努力して取り組んでいた。
しかし・・・服を「必要以上に」脱がされた斎藤は、そんな汗まみれの茂に対し、一生忘れられないような「冷たい視線」で、最大級の無言の「軽蔑心」をもって、見下すように目を細くしてにらみつけるのであった。
(おい、変質者。くれぐれも、「不必要な露出」・・・「露出」だけは謹んでくれよな。ククク・・・。)




