第206章:『S看護専門学校』(12)
茂と熊田君が『甘く見ていた』美化委員。
やはり、益子先生が担当となったということに「鬼門」があった。
この学校での昼食は・・・一般の4年制大学のような「学生食堂」や「カフェテリア」といったものがなかったので、みな、めいめいが「持参の弁当」あるいは、近くのコンビニで買ってきたパン・惣菜といったメニューだった。
しかし、教室で食べた後は、ゴミ箱が室内にたったひとつしか設置されていなかったということもあり、たちまちゴミ箱周辺には、入りきらずにゴミ箱の外に流れ出した「ミートスパゲティの汁」やら、ブリックパックのジュースから漏れた液がこびりつき・・・初夏の頃には、授業中にもそれらの汚れがプーンとにおってくる・・・こんなありさまだったのだ。
そういった経緯もあり、益子先生を含めた「美化委員会」では、教室内には、ゴミ箱の類はいっさい置かせず、自分の出したゴミは自己責任ですべて学生が持ち帰る・・・こういった流れに変えていこうと決定した。
その『ゴミ箱の撤去・完全廃止』の情報伝達・連絡役をまかされたのが・・・ほかでもない、「美化委員長」となった茂であった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
・・・ある日の放課後のホームルームでのこと。
予定通り授業が終わり、そそくさと学生が帰り支度をしていたときのことである。
このあとアルバイトを控えた学生たちは、まるで誰かにせかされるように、机の奥に無造作に椅子を押し付けて片付け、『いざ、帰ろう!』と教室を出ようとしていた。
そんな忙しい彼らに、茂の引きとめる声が・・・。
「えーーーー、みなさん、聞いてください。」
なんだなんだ、といった表情で、戸口で振り向く学生。
「すみませんが・・・もう一度、席についてください。みなさんに連絡事項があります。」
不承不承に、席につく学生。
「あのですね・・・教室の一番後ろにある、その『ゴミ箱』なんですが・・・本日をもって、撤去・廃止します。」
「ええええーーーっ!?」
学生が騒ぐ。
「なんでだよお・・・。」
「理由わああーーー?」
「じゃあ、あしたから、ゴミはどこに捨てんだよぉ!」
自分に突き刺さる視線と、厳しい質問にとまどう茂。
いや・・・茂に対してだけではない。
全員の正面・・・彼の横に同様に並んだ『熊田君』『加藤ゆりかちゃん』・・・そして、『前田さん』にも、みなのにらみつけるような冷たい視線が刺さる。
「ふざけんなよ、杉山さん・・・じゃあ、今後ゴミをどうすんのか、ちゃんと説明してくれよ!」
そう怒鳴ったのは・・・27歳の『坂主』。
さらに21歳の専門学校中退の『斎藤』も、「なんだよ。ゴミ箱増やすのかって思ったら・・・逆に『廃止』ですかぁ!? なにそれ??」と。
「ですから・・・基本、自分の出したゴミは、自分で持ち帰って・・・」
もう、茂の言葉を聞いている学生などいなかった。
不満げな、敵意むき出しの表情でにらみながら、ゾロゾロ引き揚げる学生たちのあとに残されたのは・・・くやしい表情をして立っている茂と・・・居心地の悪そうな『美化委員』の残りのメンバーであった・・・。




