第194章:里香とのデート(8)
「・・・ねぇ、茂君。さっき話してくれた『中岡葉子さん』なんだけど・・・。」
「えっ・・・?」
「茂君・・・彼女が、亡くなった『峯岸美絵子ちゃん』に瓜二つだって、そう言ってたわよね・・・?」
「え・・・あ、ああ。」
「もしかして、その『葉子さん』・・・美絵子ちゃんの・・・。」
「僕ももちろん、そう考えたよ。だってさ、『他人のそら似』なんてレベルじゃないんだよ。見た目だけならともかく、声までそっくり同じだなんて・・・ふつう、ありえないでしょ??」
「そうね・・・。ねぇ、茂君。やっぱり葉子さんは、美絵子ちゃんの実の『双子』・・・。」
「いや、そうは思えないな。だってさ、美絵子ちゃんは、『9月8日生まれ』。葉子ちゃんは、『3月31日生まれ』。おまけに苗字だって、『峯岸』と『中岡』・・・ほら、ぜんぜん違うでしょ・・・? やっぱり、単なる偶然・・・」
「茂君・・・。あたし・・・なんだか、気味が悪いわ。」
「そうかい・・・? どうして??」
「だからいま、こうして美絵子ちゃんが・・・。」
「えっ・・・? 美絵子ちゃんが、どうかしたのかい・・・?」
「いまね、茂君の『匂い』・・・美絵子ちゃんの匂い・・・『サクランボの香り』になってるでしょ・・・?」
「えっ・・・あ、ああ。そうだよ、里香ちゃん。」
「もしかして・・・茂君の『匂い』・・・美絵子ちゃんが亡くなってから、いったん『元の香り』に戻らなかった・・・?」
「えええっ!? なんで里香ちゃんが、ソレ知ってるのぉお???」
「・・・やっぱりね。きっとね、美絵子ちゃん・・・いまの茂君が心配で・・・とてもとても心配で、『守りに来た』んじゃないかしら・・・?」
「えっ・・・? 『守り』・・・だって??」
「そうよ。しかもね、ただ守ってるんじゃないわ。『見守ってる』んだわ、きっと・・・。あたし・・・なんだか、こわい!」
「そんなことないよ、里香ちゃん。美絵子ちゃんはね・・・。」
「だって茂君・・・。あの『北海道農業実習』で理沙ちゃんと過ごしてたときだって・・・ずっと茂君の体から、『美絵子ちゃんの匂い』がしてたって、理沙ちゃんも言ってたんでしょう・・・? 『農大祭』のときも、茂君の匂いって、同じ『サクランボの香り』だったわ・・・。それって、やっぱり・・・。」
「考えすぎだよ、里香ちゃん。」
「ううん。そうは思わない。茂君・・・あたしが、茂君のこと、死ぬほど好きなのに、いままでどうして控えめにひとり我慢してきたのか、わかる・・・?」
「・・・・・・。」
「茂君の中に、はっきりと、『峯岸美絵子ちゃん』の姿が見えているからよ。まるで、生きているみたいに、はっきりと感じられるの。」
「まさか・・・。」
「ううん。ウソじゃないわ。・・・ねぇ、茂君。『まゆみちゃん』以外にも、もしかしたらいままで・・・茂君に魅かれながら、ことごとく茂君に断られたり、フラレちゃった女の子がいなかった? ・・・それも、一人や二人じゃなしに。」
「そういえば・・・。」
「やっぱりそうだわ。茂君には、美絵子ちゃんが、『守護霊』みたいにそばにいてくれて、ずっと守ってくれているのよ・・・。」
「・・・・・・。」
「だから・・・あたしみたいな『よそもの』は、美絵子ちゃん、いつまでも許してくれないんだわ、きっと・・・。」
里香はそう言って、両手で顔を覆って、さめざめと泣き出した。
そんな里香の肩をそっと抱き、優しく語りかける茂。
「・・・そうじゃない。そうじゃないよ、里香ちゃん。美絵子ちゃんは・・・美絵子ちゃんはねぇ・・・きっと里香ちゃんを、僕の『恋人』として、認めてくれてるはずだ。だってさ・・・僕が一番つらかった、あの『牢獄生活』で、毎日毎日面会に来てくれて、僕を助けてくれたじゃないか。だからね、里香ちゃん・・・何もこわがることなんかないんだよ。・・・美絵子ちゃんは・・・美絵子ちゃんはね・・・そんな子じゃないよ。そんな、『こわい子』じゃないんだ。とってもとっても優しくって、本当に可愛い子なんだ。昔も・・・そして、いまもね。だから里香ちゃん・・・。」
・・・そんな茂の目にも、いつしか熱い涙が光っていた。




