第191章:里香とのデート(5)
茂たちがいま座っているのは・・・『一万人プール』北側にある野球場で、その場外の通路に設置されたベンチ。
そのすぐうしろの大きな樹の上の方からは、ときどき、「コツコツ」と規則正しい物音がする。
「・・・ねぇ、茂君。」
「なんだい、里香ちゃん。」
「あれ・・・あの音、あれはいったい、何の音かしらね・・・?」
「ああ、あれか。あれはね、里香ちゃん・・・『キツツキ』だよ。」
「キツツキ・・・なの?」
「ああ。僕もね、初めてあの音を聞いたときは、何なのかわからなくってね・・・。ちょうどそこへね、地元の物知りのおばさんが通りかかってさ・・・『お兄さん、アレは、キツツキが幹をつつく音なんだよ。』って教えてくれたんだ。もっともね、そのときもいまも、そのキツツキ自体の姿は見えないんだけどね・・・。」
「ふふふ・・・そっか。『キツツキちゃん』だったかぁ・・・かわいいわよね。なんか・・・『しげるちゃん』みたいよ。」
「こらぁ、里香ちゃんったら・・・。ぼくちゃんを赤ちゃんみたいに言って。そういう『りかたん』も、きゃわいいやんか。うふふ♪」
「まぁ。お上手ね。ふふっ♪」
ふたりは、すっかり昔に戻ったようだった。
・・・しかし茂には、こうして里香と時間を忘れて、仲良くじゃれあってはいても、心の奥底では、葉子・・・いや、美絵子のことを考え始めていた。
里香といっしょにいながら、こうして彼が彼女以外の女性のことを考えるのは・・・彼の生まれ故郷の矢板市にあった、かつての彼の木造校舎の母校・・・そう。
あの『川崎小学校』取り壊しの日、里香を自室に招いたときに、机の上の写真の中の美絵子と理沙のことを思わず、ぼんやりと考えてしまったとき以来だったのである。
そして、敏感な里香は、そんな茂の心中にそれとなく気づきながらも・・・彼と仲良く腕を組み、彼の体に甘えるように自分の頭を預けながら・・・恋人そのものという、幸せいっぱいの様子で、彼と話しながら、ゆっくりと公園外周コースを歩くのだった。




