第177章:獄中の茂(12)
「茂くん・・・。」
泣きつづける茂に、里香はひと言。
「あたし・・・今日はこれで帰るね。あした・・・あした、またこの時間に来るから・・・。」
里香はそう告げると・・・差し入れの『ブランデーケーキ』と、『はちみつカステラ』を彼に渡し・・・もう一度茂を心配そうにじっと見つめると、『接見室』をあとにした。
(これは・・・あのとき、埼玉県のK市に行ったとき、『滝田良子さん』が僕に持たせてくれた、あのおみやげと、まったく同じものじゃないか・・・! 里香ちゃん・・・君は・・・。)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日。
面会に来てくれた里香に、美絵子との、あのあとの一連の流れ・・・悲しい別れのいきさつを、かいつまんでではあったものの、初めて語って聞かせた茂。
それを、微動だにせず、真剣な表情で、黙って静かに聞く、里香。
「・・・そっか。そんなことがふたりの間にあったなんて・・・。あたし・・・あたし、いま、茂くんに、なんて言葉をかけていいのか、わからない・・・。」
「里香ちゃん・・・。もう・・・もう過ぎたことさ。遠い遠い昔の話・・・。僕だって、あれから前に向かって歩き始めたんだからね。でもね、昨日みたいに、急に記憶が『フラッシュバック』しちゃって、突然泣き出すことも、実はあるんだよ。そんなとき・・・そんなとき、僕は・・・。」
「わかるわ・・・。だって、あたし、美絵子ちゃんと理沙ちゃん・・・あのふたりと茂くんのやりとり、思いっきり楽しく笑いながら遊ぶ様子を、そばでずっと見守ってきたんだもの。茂くんのいまの気持ちも、痛いほどわかるわ・・・。」
「里香ちゃん・・・僕は・・・僕はね、いま僕には・・・。」
「それもなんとなくわかるような気がするの。茂くん・・・あれから誰か・・・きっと、誰か『いい人』見つけたのよね。」
「里香ちゃん・・・。」
「ねぇ、茂くん。『女の勘』って知ってる・・・?」
「女の勘・・・。」
「そうよ。あたしには、いま茂くんが夢中になってる、その女の人が見えるような気がするの。だって、茂くんの『匂い』が・・・。」
「え・・・? 僕の『匂い』??」
「うん。最後に茂くんと会った、あの日・・・茂くん、サクランボみたいないい匂いしてたでしょ・・・? いまね、この部屋一杯に、あのときの『美絵子ちゃん』のいい香りがしてるのよ。だからきっと・・・いまの茂くんの『彼女』という人って、もしかしたら・・・。」
(里香ちゃん・・・君は、そこまで僕の状況・・・置かれたいまの境遇まで見抜いて・・・。すごい・・・。僕は、こんなすごい、魅力溢れる人を『そでにして』しまっていたのか・・・。里香ちゃん、僕は・・・。)




