第174章:獄中の茂(9)
次に母が面会に来てくれたとき・・・彼は、またひとつの「頼みごと」をした。
「母さん・・・葉子ちゃんに連絡して、俺がここに収容されていることを伝えてほしいんだ。」
「いいのかい、茂・・・。それじゃ、葉子さんにお前の事件のことが・・・。」
「むしろ、彼女には知っていてほしいんだ。もし、彼女が『本物』なら、彼女は必ずここに・・・。」
「そっか・・・。分かったよ。もう一度、葉子さんに電話してみるからね。でも茂・・・独房は寒いんだろ・・・? 風邪ひくんじゃないよ。」
「ありがとう、母さん。たしかに寒いけど・・・仮にも、『室内』。屋根だってあるんだし・・・。大丈夫だよ。」
「そっか・・・。それ聞いて、安心したよ。あ・・・これね、お前が言ってた、夏目漱石の『坊ちゃん』と『それから』と『こころ』。ずいぶん、夏目漱石が好きなんだねぇ、茂は。」
「うん。僕ね・・・漱石先生の小説が、一番しっくりきて、肌に合うんだ。何度読んでも飽きないし・・・。いつかね、母さん。僕がここを出たら・・・『社会復帰』したら・・・先生のように素晴らしい、読者が感動するような『小説』を書いてみたいんだ。」
「そう。その意気、その意気。お前なら、なんだってやれるよ。だって、仮にも、中学までは、学年トップの優秀な子だったんだからね。誰にも負けやしないよ。」
「うん・・・ありがとう、母さん。俺ね・・・なんとかがんばってみるよ。葉子ちゃんに、よろしく伝えてね。ここにきてくれるように・・・。頼んだよ。」
こうして茂は、葉子の『面会』の件を母に託し・・・つらい「取調べ」の日々を耐え抜く決心を、新たに固めるのであった・・・。




