第171章:獄中の茂(6)
勾留生活3日目の朝。
『運動場』で仲間たちと顔を合わせる茂。
「Aさん」は、朝早くに、別の警察署に移されていった。
この『運動場』は、房よりも高い、3階の位置にあり・・・毎朝・毎夕、茂たち『留置場仲間』は、ぞろぞろとここに10人ほど集まり・・・まずは、ここに置かれた「電気かみそり」で、伸びたヒゲをそる。
一般的な「刃のついたカミソリ」では、万が一にも、看守役の警察官に危害を加えたり、それでもって自殺する者もいるからだった。
「・・・杉山君、おはよう! 元気かい??」
「あ・・・Bさん、おはようございます。」
「あ・・・杉山さんだ。ゆうべは、よく眠れたかい・・・?」
「ええ、おかげさまで。・・・Cさんは?」
「うん・・・あいにく僕は、よく眠れなくてねぇ・・・。この『Bさん』、すっごく、いびきがうるさいもんだから・・・。」
「あれぇ、Cさん。言ってくれるじゃんかよぉ。Cさんも、寝てるときは、けっこうデカいいびきかいてるんだぜ??」
「えっ・・・そうだったの? ごめんごめん。いびきって・・・自分じゃあ、なかなか気づかないもんだからねぇ・・・。」
「ははは。いいっていいって。ところでさ、杉山君は・・・いくつなんだい・・・?」
「僕・・・今年で、35です。10月には、36ですよ。」
「そう・・・。で、なにやって、ここに来ちゃったの・・・?」
ここで茂は、ゆうべ「Aさん」が言ってくれた『アドバイス』を思い出し、さっそく実践してみた。
「いや~、スミマセン・・・。あんまし、ちっぽけな『やらかし』なんで、わざわざ先輩方に話すほどのことでは・・・。」
「ふうん、そうなんだ。まぁ、いいや。俺ね、『車上荒らし』専門。このC君もね。」
「またBさんったら・・・やたらに僕のソレを人に言わないでくださいよぉ・・・。」
「ごめん、ごめん。でな、杉山君。あすこにいる、Dさん。あの人、何やったと思う・・・?」
「さぁ・・・。」
「実はな、あの人、ダンプカーで曲がり角の民家に突っ込んじゃってさぁ・・・こたつに入ってたおばあちゃんを、突っ込んだダンプでひき殺しちゃったんだってよ。家に居眠り運転で突っ込んじゃって。」
すると、話の「ネタ」にされたDさんは、茂たちをジロリとにらむと、向こうを向いてしまった。
「・・・おそらく、俺の見立てでは、あの人、少なくとも5年は、実刑で『交通刑務所』に収監されるだろうなぁ・・・。それだけじゃないぜ。民事の面でも、すげえ額の補償金っつーの? 賠償金ふんだくられるよ。これから、いろいろ大変だぜ、彼は・・・。」
「杉山さん。君が行くかどうかはわからないけれどね・・・もし、君がこのあと『拘置所』に移送されることになったら、マジで大変なんだぜ・・・。ねぇ、Bさん。」
「そうだぜ、杉山君。いいかい、『拘置所』行くとなぁ・・・ここみたいに、暇なときでさえ、横になって寝ることも禁止だし、壁に寄りかかって座るのも禁止。あとなぁ・・・これはあくまで、俺が小耳にはさんだ『うわさ』なんだけどよ。部屋の『ボス』の「チ〇ポ」咥えさせられたり、『便水』飲まされたり・・・・つまりは、便器の中の水だわな。あとな・・・コレが最悪で、メシが毎回出るだろ・・・? アレになぁ、その房全員の『精子』ぶっかけられて、それを食わされる・・・こんな、エゲツねぇ話まで、俺は聞いたよ。でもさ、そんな『ゲテモノ』だって、食わないと死んじまうしな。あぁ・・・『拘置所』だけは、行きたくねえよなぁ・・・。」
「そうだよ、杉山さん。言っとくけど、いまのBさんの話・・・全部、本当だからね。気をつけるんだよ・・・。あぁ、早く働きてぇ・・・。俺も、このあと『拘置所』だけは、行きたくねえよぉ・・・寒そうだしなぁ・・・。」
このようにして茂は、自分の情報は必要最小限に開示するにとどめ・・・他の仲間からの重要な情報をそれとなく収集し、今後の自分に役に立ちそうな『血肉』として、自らの脳に、深く深く、刻み込んでゆくのであった・・・。




