第162章:度重なるカネの無心・・・しかし、なぜか母は・・・(2)
「・・・しげちゃん、ありがとう。」
葉子が、礼を述べる。
「いやいや。君が困っているんだもの・・・黙って見過ごしてはいられないよ。」
「本当に助かっちゃった、あたし・・・。でも、どうやってお金作ったの?」
「うちの母さんに借りた。気にしなくていいよ、葉子ちゃん。だってね、君には、『1号店』のときから、ときどき、延長するときのお金、半額とか全額、負担してもらってたじゃんか。」
「そうだけど・・・」
「とにかく、よかったよ・・・。でも、ひとつだけ聞かせてほしいんだ。」
「なぁに、しげちゃん。何でも言ってみて。」
「今回のお金・・・なぜ必要なんだい・・・?」
すると、葉子は一瞬だが、険しい目で茂を見据え・・・すぐに、元のおだやかな目に戻ると、こう言ったのだ。
「・・・うん。実はねぇ、あたし・・・『泥棒』に入られちゃったの・・・。」
「ええっ! 『泥棒』・・・だってぇぇえ!?」
「そうなの。あたし、マンションに一人暮らしなんだけどね、1階に住んでるもんだから、ベランダから犯人が侵入したみたい。」
「えええっ!? で・・・葉子ちゃん、そいつに何もされなかったの・・・? 大丈夫ッ!?」
「うん。幸い、あたしが不在のときに入ったみたい。でもね・・・財布やら、通帳やら、キャッシュカードやらが、根こそぎやられちゃったのよ。だから、あたしね・・・首でも吊っちゃおうかなって・・・。」
「おいおいおい、物騒なこと言わないでよ。じゃあ、生活費が・・・」
「そうなの。 ・・・ねぇ、しげちゃん。ものすごく申し訳ないと思ってるんだけど・・・そういうわけだから、あと『10万』・・・10万でいいから、お母さんから借りてきてくれないかな・・・? じゃないと、あたし、死んじゃって・・・」
「うううむ・・・。わ、わかった。もう一度、母さんに頼んでみる。でも、ダメだったら、ごめんよ。」
「うれしい! やっぱり、『最後に』頼れるのは、しげちゃんなんだよね・・・。あたし、しげちゃんと知り合えて、本当によかった・・・。じゃ、さっそくお願いね。」
「え・・・? いまから?? サ・・・サービスは???」
「この次、気合入れてやるから。今日は、これで、ごめんね・・・。」
~ ~ ~ ~ ~
茂は、こうして葉子を無事、「助けた」のであるが・・・実のところ、彼女が言った『泥棒』の件など、ハナっからウソだと見抜いていた。
しかしながら・・・「惚れた弱み」の悲しさ。
結局彼は、今回だけでは済まず、その後数回にわたって、ごく短期間のうちに葉子から金をせびられ・・・気がつくと、総額『80万円』もの大金を、葉子に渡していた。
・・・もちろん、すべて茂の母の『ポケットマネー』からである。
彼の母は、その件に際して、理由はわからないが、ひと言も詳しい説明を彼に求めなかった。
これは、令和の今になっても、いまだ謎なのだが・・・なぜか彼の母は、茂や葉子を責めたり、なじったりしなかったのである。
もしかしたらそれは・・・茂の内に眠る、葉子・・・いやさ、彼女の向こう側に茂が見ていた、自分の知らない大切な『誰か』・・・すなわち、『峯岸美絵子』の大きな姿が、はっきりと母には見えていたからなのかもしれない。
なぜなら、茂が一度も母に話したことのない、彼のかけがえのない、想い出の人・・・その人が、かつて、3年に渡り茂の家に遊びに来ていた、親友の『田中理沙』とともに、茂の机の片隅で、ずっと彼を見守ってくれていたのを、母も知っていたからなのだった・・・。




