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第156章:逃した魚は・・・大きかった

 2001年4月。


 21世紀に入って、はや4ヶ月。


 TVでは、『モーニング娘っ子』が、連日お茶の間をにぎわせていた。


 はじめ5人ほどのグループだった、この団体は、次第にメンバーを増やし・・・プロデューサーの『つんつくつん氏』監修の元、ヒット曲を次々に飛ばし、ヒットチャートも独占していた。


 昔、80年代に『おニャンニャン倶楽部』という名前の団体のアイドルグループが、世の男たちの目と耳を楽しませていたが、その「再来」というのか、「後継者」といった感じであった。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 茂が、『スマイルスタッフ』という新しい派遣会社に登録し、配属されたのが、あの「吉野工業所」であった。


 ・・・今度は、「第1工場」。


 シャンプーの「ボトル部分」の生産を主にする工場だった。


 彼はここに、2001年4月~2001年12月まで在籍していたが・・・最後はベテラン社員ともめ、その日のうちに退職の意向を派遣会社に伝えた。


 もめた理由は・・・「理不尽な要求に対する抗議」だった。


 彼は、最後には、2ラインの同時検査を任されたが、これは、いまから考えても、「嫌がらせ」としか思えないほど、ムチャな要求だった。


 片一方の製品の検査をしているうちに、もう一方の製品が、間に合わず、ボロボロとラインからこぼれ落ちてしまう。


 どうやっても、無理な「二正面作戦」であった。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 2001年は、茂が大いに「絞った」年でもあった。


 葉子がいなくなっていた1996年から数年間で、約30キロも太っていた彼は、食事を根本から見直し・・・大いに減量に励んだ。


 そのため、入った頃に彼を馬鹿にしていた、「おばちゃん期間社員」や、派遣の女子社員も彼を見直し・・・それとなく告白する子まで出てきた。


 しかし、そういった「手のひら返し」を忌み嫌っていた彼は・・・そんな彼女たちの気持ちを受け入れることはなかった。


 彼が減量に成功してからまもなく・・・ひとりの可愛い子、いや、美人が入ってきた。


 茂と同じ、『スマイルスタッフ』に登録していた女性で、名を『小林愛(こばやしあい)ちゃん』と言った。


 これも、先に紹介した『田辺さん』と『やよいちゃん』と同様、本名である。


 ここに記載することの許可は頂いていないが・・・彼女の悪口を書くわけではないので・・・。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 これは、決して茂が選んでいたわけではないのだが・・・昔から彼は、なぜか『美人』『可愛らしい子』に、特に縁があった。


 いつも彼が好かれるのは、基本的にそういった女性がほとんどである。


 茂自身は、以前にも書いたように、決して『面食い』ということもなかったので、これらの事例は・・・まさに「たまたまそうだった」としか、私には言いようが無いのである。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 今度は、この『愛ちゃん』が茂を気に入り・・・ふたりは、工場の外の、「那珂川(なかがわ)」の見える休憩所や、工場内のベンチに並んで仲良く座り、いろいろな雑談をするようになる。


 『愛ちゃん』は、本当に美人だった。


 美絵子や理沙、里香、葉子にも負けないほどの「美女」そのものだった。


 のみならず彼女は・・・とてもおだやかで素直な性格で、かつて彼が愛した『峯岸美絵子』と『田中理沙』をほうふつとさせる部分・・・いや、彼女たちに匹敵する、大きな大きな魅力がたっぷりだった。


 よく、格言で、『逃した魚は大きい』というが・・・まさに、葉子と別れてしまった令和の今現在、茂には特にそう感じられる、希に見る「ウルトラ美人」だったのだ。


 実際、茂が彼女の「告白」を断ったことを知った、工場の男性社員たちは、こぞって『愛ちゃん』のご機嫌を取ろうと躍起になっていた。


 でも、彼女の心は、「茂一色」に染まっていたので、その「努力」のどれもこれもが、むなしい徒労(とろう)で終わったようだが・・・。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 繰り返すが・・・当時の茂の頭の中は、「葉子一色(ようこいっしょく)」「葉子命(ようこいのち)」だったので、当然彼は、その告白を、例により「やんわりと」ではあったが、断ってしまった。


 「彼女がいるから」という理由も話してはいたが、あきらめきれない『愛ちゃん』は、ことあるごとに・・・そう。


 一度ならず数度にわたって、茂にこう持ちかけてきたのだ。



 「・・・茂さん、ちょっと相談があるんですけど・・・。」


 「なんだい、愛ちゃん・・・?」


 「あのぅ・・・茂さんって、例の『彼女』に飽きたりはしないですか・・・?」


 「んーー、いや。飽きたりはしないよ。ただね、ちょっと気が強くて、なかなか苦労はしてるけどね・・・。」


 「そうですか・・・。」



 ・・・涙目でうつむく彼女に、茂は、なんと言葉をかけていいのか、わからなくなってしまっていた。


 ~  ~  ~  ~  ~


 そんな『愛ちゃん』も、茂がこの工場を退職する、ほんの少し前に、『サヨナラ』も告げずに、いつのまにか辞めていた。


 (・・・俺は、もしかしたら・・・とんでもなく『でっかい魚』、いや、『人魚姫(にんぎょひめ)』を逃(のが)してしまったのかもしれないな・・・。)


 ・・・あれから25年。


 葉子と別れた今、『愛ちゃん』の、その当時のいとしい姿を、ごくたまーにではあるが、何かの拍子(ひょうし)にフッと思い出し・・・強く、そう感じるときがある。

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