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第153章:派遣の渡り鳥、茂

 民間企業にて、『派遣社員』として働く茂。


 しかし、「吉野工業所」を、わずか二ヶ月余りで辞めたあとは、職や派遣会社を渡り歩き・・・一年で、数回も転職していたのだった。


 読者の皆様もご承知のように、派遣会社は、茂のように「自己都合(じこつごう)」で短期間のうちに辞める人間にはかなり厳しく・・・なかなか「出戻(でもど)り」は許されなかった。


 いわば、「辞めグセ」のついてしまった茂は・・・日曜の新聞にはさまっている「派遣社員募集広告」をにらみ、「もっといいところ、もっといいところ・・・」と、なるべく楽で長続きしそうな現場や、少しでも待遇の良さそうな派遣会社を漁(あさ)って、母親のなじる言葉と冷たい視線を浴びながら、「就職活動」にいそしむのであった。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 茂は、最初の『吉野工業所 第2工場』を辞めてからは、大田原市の『ニコン』に。


 この『ニコン』では、昼勤と夜勤の2交代制だった。


 しかしここで彼は、派遣会社に入ってから、はじめて、「いじめ」「いやがらせ」を経験する。


 この現場は、主に、「カメラ関連」の会社であり、普通のカメラのレンズのみならず、ひとつ何千万円もする、非常に高価で精巧なレンズも取り扱っていた。


 茂が配属された部署は、その高価なレンズに検査用の特殊な溶液を垂らし、これまた特殊な機器でもって、「レンズのひずみ」を測定する業務を任されていた。


 もう、26年前のことであり、とうに退職されておるだろうから本名を書いてしまうが・・・茂はここで、『戸部(とべ)』という、たぶん、当時50代の男性社員に、嫌がらせを受けることとなる。


 その男は、妙に「気さく」・・・いや、「偏屈(へんくつ)」なところがあり、くだらない「口上(こうじょう)」「クソおやじギャグ」をやたらほざき、来る人来る人に垂れ流す、典型的な「つぶやきオヤジ」であった。


 本当にくだらんギャグであり・・・それを聞かされた人は、苦笑(にがわら)いとか愛想笑(あいそわら)いをしてごまかし、ヤツのご機嫌を取っていた。

 

 「いやぁ~、戸部(とべ)さんのギャグって、ほんっとに天才的ですよ。俺・・・マジで感動しましたッ!!」


 ・・・みえすいた「おせじ」も、たいがいにして頂きたいものである。


 そうやって、妙におだてるから、馬鹿が本気で喜び、図に乗るのだ。


 くだらないギャグに付き合っていられなかった茂は、「おいおい、やめてくれよ、もう・・・」といった表情で、連中から離れて、一人で自家用車で昼食をとる。


 それが気に障(さわ)った戸部は・・・公私混同(こうしこんどう)し、まったく茂に仕事を教えてくれなくなった。


 当然彼は、仕事に行(ゆ)き詰(づ)まり、途方(とほう)にくれることに。


 要領が悪く、「ウソ」や「おせじ」ががなかなか言えなかった、当時の茂は・・・戸部が茂の後ろに回りこんだときにボソッと言った『ひと言』で、辞めることに決めた。


 「・・・もっと苦しめ。」



 わずか一週間の勤務であった。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 読者の皆様には、このときの茂の失敗から、いろいろ学んでほしいと思う。


 たとえ相手が、「超クソつまんねーギャグ」「お寒いオヤジギャグ」などを、こちらに放ってきたとしても、決して、冷たくあしらってはいけない。


 とはいうものの・・・別に、可笑(おか)しくもないのに、腹を抱えて、「あっはっはっは!」などと、笑い転げて見せる必要などまったくない。


 くすっと笑う程度で十分である。


 「ウケた」と思えば、簡単に相手はだまされ、満足する。


 なにしろ、『馬鹿』である。


 そして、戸部は、この『なにしろ』という接続詞を、やたら乱用し、文脈や話の流れを全く無視して、強引に会話に挿入(そうにゅう)してくる、日本語さえもロクにマスターできておらぬ「アホタレ」でもあった。


 「なにしろ、おはよう! そういえば、昨日な、なにしろ新聞を読んだらな、小泉首相がなにしろネクタイの色が赤だったもんだからだな、そんなわけでなにしろ、この俺は

だな・・・なにしろ・・・」


 ・・・あきれて、モノも言えぬわ。


 もし、このような『キXXイ』に不幸にして遭遇してしまったら・・・ひたすら自分が「馬鹿に徹し」、決して逆らわぬこと。


 それが、「上司」や「先輩」となれば、なおさらである。


 「時と場合にもよるが、基本、ひとまず自分がバカになって・・・大馬鹿の脳タリンを、おだてるが勝ち」・・・


 これを肝(きも)に銘(めい)じていただきたいと・・・そのように思うところなのであります。

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