第138章:バレンタインデーの夜にちらつく、あの女性の影
2000年2月14日。
・・・バレンタインデーのこの日。
茂は、久しぶりに・・・本当に久しぶりに、『みずき』を指名し、『パラダイス キャンパス2号店』にいた。
ずっとまゆみを指名して、小山市に通っていたので・・・もう、3年も彼女には会っていなかった。
「・・・ごめんね、みずきちゃん。僕ね、糖尿病でずっと入院してたんだ。仕事も行けなかったから、お金が無くてね。やっと先月から、仕事復帰さ・・・。」
まさかみずきに、「君じゃなくて、小山市の柳原まゆみに、『生尺』してもらってました」などという本当のことなど、言えるわけがない。
『ウソも方便』とはよく言ったもので・・・幸い、みずきが、そんな茂を疑うことは無かった。
(やっぱり、みずきちゃんだよなぁ・・・。ちゃんと僕が来ることまで予見して、こうして、特製のチョコレートまで用意してくれてたんだもんなぁ・・・。なんか、申し訳なくって、食べられないよ、コレ・・・。)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
みずきと茂が並んで今座っているシートは・・・実は、以前、葉子と茂が、『至高の時』を味わっていた、まさに、その席であった。
しかし茂はこの日、この店内に入った瞬間から、なにか、一種異様な空気を察知していた。
みずきの『サービス』を受けた彼が、ぐったりとしてシートにもたれかかっていたとき・・・
そのすぐ隣のシートに、若い男の客が座った。
茂には初見の男のようだったが・・・その席についたホステス。
・・・どこかで聞いたことのあるような声だった。
しかし、この晩の店内は、やけに照明が暗く、すぐ隣の席の人物さえも、判然としかねる状態だったのだ。
洗面台で、茂の放出した『DNAたち』の残りを、水道の水で清めてから戻ってきた、みずき。
ふと茂は、隣のホステスが誰なのか、彼女に直接尋ねてみようと考えたのだが・・・やめにした。
3年以上も店に来なかったというのに、そんな不埒で薄情な自分でも、ひたすらけなげに待っていて、しかも、特製のバレンタインチョコまで用意してくれていたみずきに、こんなロマンティックなムードの中、他の嬢に関する質問など、恥ずかしげも無くぶつける資格などないと感じていたからだ。
(でも・・・小声で話してるようだけど・・・間違いなくこれは、『彼女』。いや・・・そんなこと、どうだっていいじゃないか。今の僕には、『みずきちゃん』がいてくれるもんな。どうだっていいよ・・・どうだって・・・。)




