第129章:茂・・・本物のサーファーになる(1)
・・・10月。
この日、茂は、茨城県日立市の『河原子海岸』にいた。
先月購入した『ロングボード』を持って、ようやく、サーファーとして、砂浜にたたずんでいた。
彼は、目の前に寄せ来る無数の波を眺めながら・・・しばし、『あの晩』の出来事を思い出していた。
・・・それは、いま、思い起こしてみても、不思議な一夜だった。
茂が同時に味わった、ふたつの『再会』。
しかもそれは、50mも距離を隔てていないふたつの場所で、時をわずかにズラして起こっていた、皮肉極まりない、『時間差の再会』・・・。
茂がまゆみと性的に、濃厚につながっていた、まさにその時間・・・少し離れた場所では、彼の愛する葉子が、自分の知らない男たちと時間を共有し、楽しそうに談笑する・・・こんな同時進行の『運命の皮肉』を目の当たりにした彼は、こうして今、明るい日の光の下、青い大海原を前にしてもなお、いぜん心は、あの闇の中をさまよっていた。
(・・・このままじゃいけない。俺は、前に向かって歩き出さなければならないんだ。いつまでも葉子ちゃんのことを、未練がましく想っていてはいけないんだ・・・。だからこうして、新しいスポーツも始めたんじゃないのか。 ・・・俺は・・・俺は、もう、変わらなきゃならないんだよ・・・。)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
この日茂は、まったく波には乗れなかった。
事前に、綿密にサーフィンに関する書籍やビデオを観て、「イメトレ」していた彼であったが・・・いざ、実際にボードを抱えて海に入ってみると、予想以上の厳しい現実というものを、心で・・・そしてなによりも体全体で感じた。
(覚悟はしていたが・・・こんなに難しかったんだ、サーフィンって。まさに、『見るとやるとでは、大違い』ってトコか・・・。世の中、甘くないなぁ・・・。)




