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第115章:『サーフィン』との出会い(1)

 この年の5月。


 茂は、大田原市の中心部から東方に位置する、当時の日赤(にっせき)病院の近くにあった、小さなサーフショップに立ち寄った。


 茂は、かなり以前からこの店の存在は知っていたが、狭い急カーブに位置していたということもあり、なかなか車を停めて立ち寄る機会がなかったのだ。


 それに、サーフショップ自体が、まだ「サーフィン」というスポーツをロクに知らなかった茂にとって、ちょっと入りにくい、『敷居の高さ』というものを感じさせていたからだった。


 茂が、買い物ついでに、ちょっと立ち寄ってみたのは、まったくの気まぐれともいえるものだったのだ。


 『ボードショップ BOARDS(ボーズ)』


 (ボーズ??・・・ぼうず・・・坊主かぁ・・・。おもしれえ。英単語なんだろうけど、妙な愛嬌があるじゃん?)


 そんなどうでもいいことを考えながら、茂は、その小さなサーフショップに、おそるおそる入ってみた。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 入店した彼の目に飛び込んできたものは・・・狭い店内に所狭しと並ぶ、サーフボードの数々、ウエットスーツ、サーフィンビデオの見本と、サーフィン雑誌の数々だった。


 初めて間近で目にするサーフボードを目にした茂が、興味津々で壁に立てかけてある先のとがったサーフボードのひとつをなでていると、店内の奥から、この店のマスターとおぼしき、30代くらいの若い男が現れた。


 「・・・こんにちは。君、まだサーファーじゃないね?」


 あいさつとともに、いきなりのぶしつけな質問。


 「はぁ・・・『まだ』、サーファーじゃないっス。」


 「君・・・ちょっと太り気味だけど、けっこう体重ありそうだね。でも、サーフィンには興味あるんだ??」


 ・・・またまた失礼な質問。


 「ええ。ちょっとここんとこ、太り気味でして・・・体重は量ってはいませんが。」


 「正直言ってねぇ・・・このスポーツは、体重が軽い人が圧倒的に有利なんだよ。上達の早さも段違いだからね。もうちょっとダイエットした方がいいんじゃないの?」


 「そうなんですか・・・? じゃあ、太り気味の人とか、太った人は、サーフィンやっちゃいけないんですか・・・?」


 「まぁ・・・あまり言いたくはないんだけどねぇ・・・現実そうなんだから、そう言うしかないな、僕は。」


 こんな会話がしばらく続くと、奥の部屋から、もうひとりの若い店員の男性が出てきた。


 「店長・・・この方、たしかにちょっと体重がありそうですけど、見た感じ、『バネ』とか『運動神経』は人よりありそうじゃないですか・・・? 俺、波乗りやった方がいいと思うんですけどね・・・。」


 「まぁ・・・そうねぇ・・・。俺にも『やるな』と言う権利まではないからなぁ・・・。でもさぁ、本音言っちゃうと、あまり新しい人に、この業界に入ってきてほしくないんだよねぇ・・・。」


 と店長。


 「なぜ、入ってきてほしくないんですか??」


 と詰め寄る茂。


 「おい、安田君。じゃあ、この方に、ちょこっと説明してさしあげな。」


 「・・・あのですね、お客さんは、『ローカリズム』って知ってますか?」


 「『ローカリズム』・・・なんですか、ソレ??」


 「最近ですね・・・サーフィン界で問題になってる、初心者にはちょいと理解しがたい、ある『流れ』っつーんですか、いや、実は最近じゃなくって、昔からこの業界にはあった問題ではあるんですけどネ・・・。」


 ここで店長が口をはさんだ。


 「・・・ようするにね、若い人。地元サーファーが、よそ者のサーファーを歓迎せず、追い出そうとする動きのことを指すんだよ。」


 「え・・・? なんで、『追い出す』んです??」


 「ああ、めんどくせーなぁ・・・。じゃあ、説明すっけど、よその県あたりから来たサーファーの『マナーの悪さ』って、君は知ってるか?」


 「マナーの悪さ・・・そんなにひどいものなんですか・・・?」


 「ああ。それはひでえもんさね。ゴミは平気で捨てるわ、片付けねえわ、夜中にやった花火のカスはそのままで帰るわ、ロクに乗れねえくせに、地元サーファーたちを押しのけて、平気で沖で並んで『波待ち』しちまうし。俺は、T県の『海なし県サーファー』だから、茨城県とか千葉県、福島県の地元の人には、ある意味『海に入らせてもらってる』わけだろう? そういう意味での『リスペクト』がないとね。」


 「『リスペクト』・・・ですか?」


 「当たり前じゃないか。君ね・・・なんで俺たちサーファーが、何事もなく、フツーに、平和に波乗りできてるか、知ってるのか・・・?」


 「いえ・・・。」


 「『ビーチクリーン』って言ってなぁ・・・地元の漁協や海岸の近くに住んでる人、地元のローカルサーファーの有志たちがね、定期的に砂浜のゴミを拾ったり、くわえタバコで海に入ろうとするサーファーに一言注意したり・・・そういった地道な運動をやってきたから、俺たち『よそ者サーファー』も、波に乗れるんだよ。 ・・・そういうわけさ。」



 (そうだったのか・・・。意外とこのスポーツ、いろんな『裏事情』があるようだな・・・。ますます興味わいちゃうじゃないか。)


 

 「業界の事情は分かりました。 ・・・それで、僕がやれる見込みのほうは・・・?」


 「そうさなぁ・・・あいにく、君みたいな、ちと体重がありそうな人が乗れるような板は、うちには置いてないんだよ。 ・・・『ショートボード』っていう浮力が無い短い板が主流だからね、まだまだ。」


 この店長が言うように、1996年5月時点では、まだまだ、のちに訪れる、いわゆる「ロングボード・リバイバル」のムーヴメントも、大きな「うねり」とはなっていなかったのだ。


 読者の皆様がよく知る、先のとがった短めの板・・・すなわち、「ショートボード」が、大勢(たいせい)を占めていた時代であった。


  「どうしても波乗りやりたかったら・・・悪いことは言わない。『ロングボード』から入りな。初心者には、絶対そのほうがいいからさ。小山市にね、俺の知ってるサーフショップがある。『ダウンアンダー』っつー名前のサーフショップなんだけど・・・そこへ行ってみな。そこなら、ロングを扱ってるよ。国道4号ぞいにあるから、比較的見つけやすいんじゃないか? ホレ、ロングボードのカタログ雑誌もあげるからさ。行ってきなよ。」


 「・・・ありがとうございます。じゃ、さっそく行ってみます!」


 こうして茂は、親切な店長に背中を押され・・・この魅力ある新たなスポーツ・・・『サーフィン』と出会い、その後、毎週のように海に通うこととなる・・・。

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