第111章:ナレーターが語る、さかのぼったエピソード(14)
・・・それからちょうど一週間。
茂が、『パラダイス キャンパス2号店』の待合室に行くと・・・深沢店長が無言で、掃除機で、ゴーッと音を立てながらカーペットの床をきれいにしている。
茂と目が合うと、店長は掃除機のスイッチを切り、厳しい表情で彼に話しかけた。
「やあ、杉山君。 ・・・久しぶりだね。元気だったかい?」
「えっ・・・ええ、まぁ。」
二人の間に、なんともいえない、重苦しい空気が流れる。
茂は、なにか、いつもと違う雰囲気の社長のたたずまいから、この店でのただならぬ「変化」の兆しを瞬時に感じ取っていた。
「・・・杉山君。『レミーちゃん』・・・いやさ、葉子ちゃんね、辞めたよ。」
「ええっ!?」
「辞めた・・・。昨日付けでね。当初は、『しばらく、お休みします』って言ってたんだけれどね・・・。昨日、ホステス用の寮の荷物も全部まとめて、出ていっちゃったんだよ。いま、どこにいるのかも分からない・・・。」
「・・・・・・。」
「なぁ、杉山君。いったい、何があったんだい・・・? 私はね、今度こそ、君たちが愛をはぐくんでいって、このまま、いずれは順調に『ゴールイン』するんじゃないかって、そう期待して、この五ヶ月間というもの、そっと君たちのことを、静かに見守ってきたんだ。それなのにさぁ・・・。」
茂は、本当のことを彼には言えなかった。
・・・武村が途中から変な形で割り込んできて茂を苦しめ、傷つけてきたがゆえの『別れ』などという、残酷で切ないいきさつ、真相というものを。
「・・・わかりません。僕にも、よくわからないんですよ、深沢さん。僕だって・・・僕だって、いま、自分の気持ちをどうやって落ち着けて、なぐさめてやったらいいのか、よく分からないんです・・・。」
「杉山君・・・。」
茂は、深沢社長の心配そうな顔をちらりと横目で見ると、店をあとにした。
駅に向かう彼の目には・・・いつしか涙があふれていた。
(・・・もう・・・もう、今度こそ、葉子ちゃんには会えないんだな。これで・・・これで本当にお別れなんだ。ごめんよ・・・葉子ちゃん、本当にごめんよ・・・。俺・・・俺・・・)




