第110章:ナレーターが語る、さかのぼったエピソード(13)
日曜とあって、茂が到着すると、すでに待合室には客が平日の倍近く、ソファに座っていた。
若者からお年寄りまで、さまざまな年齢層の男たち。
不思議なことに、かなりマメに通っていた茂であったが、『1号店』時代を通じても、こうした待合室にて、自身の知り合いとは、ただの一度も遭遇したことはなかった。
もちろん、「武村一派」や、「関谷一味」とも。
日を違えてなのか、茂に会わないよう、時間をズラして入店していたのかは、今となっては、確かめるすべも無いのだが・・・。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「・・・葉子ちゃん、こんばんは。ちょっと話があるんだ。」
『サービス』前の、いつもの短い雑談にて、茂が神妙な面持ちでたずねた。
「どうしたの、しげちゃん。また、そんな怖い顔して・・・。何かあったの??」
「うん。ちょっと、これを見てくれないか。」
茂が、昼間撮った、武村の写真を差し出す。
「この、少し右側に写った、眼鏡の中年のおっさんがいるだろう・・・? 青いハッピ着て、顔を変な風に傾けて、気持ち悪い笑い顔して突っ立ってるアホヅラ野郎がさ。このオヤジ・・・見覚えないか??」
「ん・・・? もっと、よく見せてよ、今、ペンライトで見てみるから・・・。」
そう言って、茂が指し示す人物を、じっくりと凝視する葉子。
すると・・・葉子の目が、ほんの一瞬ではあったが、かっと見開かれ、明らかにこの写真の人物を知っているような反応を、茂に見せたのだ。
「いや・・・ぜんぜん見たことないわ、こんな人。ねぇ、しげちゃん。前にも、あなた、こんなこと言って、雰囲気を壊しちゃったことあったよね・・・? もう、やめにしない、こんな話。あたし・・・本当に、こんな人なんか、知らないし・・・。」
「そうか・・・わかったよ。悪いけど僕・・・今日は、もう帰ってもいいかい?」
「え・・・? 『サービス』もまだしてないのに・・・どうして?」
「なんか・・・気分が悪くてね・・・今すぐ家に帰りたいんだ。ごめんね・・・。」
「・・・わかった。しげちゃん本人がそう言うんじゃ、あたしだって、引き止めようがないじゃない?? じゃ、お見送りするからね。ちょっと待ってて・・・。」
帰り際・・・茂が葉子に、さらに釘を刺す。
「なぁ、葉子ちゃん・・・。もしも・・・もしもだよ。この写真の男が君を指名してきたら・・・席に着いてニタニタして君を待っていたなら、次回から・・・いや、その場で追い返してくれないか・・・約束してくれ!」
「わかった。・・・しげちゃん・・・よっぽど、その人、嫌いなようね。じゃあ・・・また、今度ね・・・。」
そう葉子は茂に告げると、そっとドアを閉めた。
・・・とてもさびしそうな、そして、悲しそうな表情だった。
(・・・葉子ちゃん、ごめんな。また、おかしな話をしてしまって。でもね・・・わかってほしいんだ。俺は、君を守ってやりたいだけなんだよ・・・。どうか、わかっておくれよ・・・。)




