第106章:ナレーターが語る、さかのぼったエピソード(9)
その翌日。
茂は、1台の「使い捨てカメラ」を手に、昼食時の「検査室」を訪れた。
ここは、以前書いたように、武村一派が昼食をとる部屋だったのだ。
茂は、ニコニコしながら武村に話しかける。
「・・・武村係長、昼どきにすみません。ちょっと、よろしいでしょうか・・・?」
茂は、入所して以来、一度も彼に見せたことのない笑顔で告げた。
「何だ、杉山さん。・・・ご覧の通り、私は食事中なんだよ。それに何だね、そのカメラは??」
「・・・いえ、これはですね、一昨年度までお世話になっていた私の直属の上司の姿を見たいとせがむ友人がたくさんおりまして・・・ぜひ、そのお姿を写真で拝見したい・・・ということですので。」
「なにぃ? 君の友達が、私の姿を見たい、だって・・・?」
「はい。ですので、ぜひお姿を写真に撮らせていただきまして、見せてあげたいと思ったしだいでして・・・。」
ここで、武村の横でコンビニ弁当をむしゃむしゃと食べていた、一人の男が口を開いた。
「・・・杉山君。ちょっと、失礼じゃないのか。食事が済んでからでもいいんじゃないの・・・? なんだって、よりによって昼食時に写真なんか撮りたいって言うんだい?」
「はい。・・・ですから、私の友人が、上司の姿を見たいから、と・・・。」
茂の唐突ともいえる言動に釘を刺したのは、今年度から佐藤新太郎の上司になった、「礒」という係長だった。
この男・・・実は、武村と同期で、「武村一派」の新たなメンバーとして今年度から加わり、武村の悪だくみを陰で支える同志となっていた野郎だったのだ。
「なぁ、杉山さんよ、礒係長の言うとおりだよ。私の写真をどうしても撮りたいなら、それなりの『手続き』が必要じゃないのかね・・・? それにね、私は写真を人に撮られるのが嫌いなんだ。その友人とやらが、私の姿を見たいというなら、彼らをここに呼んで、私に直接会わせればいいんじゃないの?」
「『手続き』ですか・・・?」
「そうさ。杉山さんの言う、その『友人』とやらが何人いるのか知らないが、ここにそいつらを全員連れてきて、私に『土下座』さして・・・そうだなぁ、ひとりあたり、私の『拝観料』として、10万円ほど払ってもらわないとね。それなら私も納得するよ。」
「・・・10万円、ですか?」
「おう。それなら納得しようじゃないの。いつでも私のありがたい姿を拝ませてあげようじゃないか。だいたいね、私を『拝観』した時点で、もう写真なんか撮る必要もないんじゃないのか、ええ?」
「・・・・・・。」
「まだわかっていないようだね、杉山君は。要するに、武村係長は、写真を撮るなって言ってるんだよ。それを何に使うのか知らないけど。」
礒が武村を援護する。
「でも・・・写真を撮らせてくれないと、困るんですよ、僕は。」
「おい、しつこいぞ、杉山! 今まで『さんづけ』で呼んでやってたが・・・これからは、『呼び捨て』で行くからな。写真を撮られちゃ、困るんだよ、こっちはッ!!」
「写真ぐらいいいじゃないですか、減るもんじゃないし。」
「おい、いいかげんにしろよ! ロクに仕事も出来ないくせに。だからあんたは、『用度係』なんつー、誰でも出来る部署に配置換えされたんだよ!! 人事の関谷さんもなぁ、お宅を採用して大失敗だったって、言ってるぜ?? 『ミにもクソにもなってねぇ』ってな。ほら、メシの邪魔だよ、杉山ぁ! さっさとこの部屋から出て行け!!」




