第105章:ナレーターが語る、さかのぼったエピソード(8)
・・・大野氏の話は、聞くに堪えないほど生々しいものだった。
それは、OBを含めた、青年部を中心に、「情報改善室」の『高山氏』などの、ごく一部の職員を除き、茂本人がいないところで広く共有されていた情報だったのだ。
もちろん、「高山氏」本人は、風俗店には一切通っていなかった。
まず大野氏は、冒頭、自身が『パラダイス キャンパス』をはじめとした、そういった風俗店には一切行っていないということを、茂に明言したうえで、話し始めた。
桑川が茂の噂を流すはるか以前から、すでに『パラダイス キャンパス』に通っていた青年部のメンバーがいたということ。
それは、青年部やOBだけでなく、何人もの中年や年配の男性職員も含まれているということ。
武村が通いだしたのは、茂が食糧事務所に入所し、桑川の流した噂話を聞いてからだった、ということ。
その武村が、茂が気づくけっこう以前から、『あや』を指名していたということ。
これまで少なくとも、関谷・武村・上田業務管理官・鈴本睦雄・小山支所の小森係長・・・の5人が来店していたということ。
その睦雄が、「スパイ」として、武村から、茂の下へ送り込まれたということ。
実質上、この男が、「二重スパイ」として暗躍しているということ。
さらに睦雄が、茂に接近し、武村の利益のための「情報かく乱」に一役買っているということ。
その睦雄自身も、現在、2号店において、陰でコソコソ葉子を指名しているということ。
そして、茂がそれに気づき、苦しむ姿を、武村と共に、陰でほくそえんで眺めようとしているということ。
自分たちが葉子を指名していることを、ちらりちらりと茂本人が分かるように「小出8こだ)し」していき、なおかつ、葉子を指名しているという「証拠」を残さないように、通う連中全員で共謀・悪だくみし、「計算」しながら行動しているということ。
関谷からの「脅し」で、連中の「風俗店通いの情報」を職場の女子には、いっさい漏らさぬよう、厳しく緘口令をメンバー全員に敷いていたということ。
女子職員の関心を自分たちからそらすために、茂ひとりを「風俗通いの不良公務員」にあえておとしめ、彼女たちの「軽蔑の視線」を茂だけに向かうように仕向け、いわば安全圏内から「スケープゴート」に仕立て上げたということ。
茂より先に『パラダイス キャンパス』に通っていた数人が、すでに『2号店』に開店当初から入り込み、『レミー』となった葉子を、かつての『あや』と気づき、指名してしまっているということ。
さらに、その情報が、すでに武村に漏れ・・・きゃつが、少し前から、葉子を指名して通っているということ・・・。
葉子が武村を自分の指名客として「受け入れ」、さらにまた、普通にキスをし、『サービス』までやってしまっているということ・・・。
そういった、思わず耳をふさぎたくなるような、おぞましく、残酷で厳しい「現実」を、大野氏の口から、直接聞かされた茂は・・・腕組みをして考え込んでしまった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「・・・大野君、よくぞ話してくれたね。事情は分かった。厳しい現実もね。本当に、ありがとう。やはり、君は僕にとって、本当の『味方』だったんだね・・・。」
「杉山さん・・・。」
「さて・・・僕はこの先、どうしたものかな。正直言ってね、大野君。もう、これ以上彼女を・・・『レミーちゃん』の清らかなクチを、武村のまがまがしくて『呪わしいモノ』でけがすわけにはいかない。どうしたら・・・。」
「ひとつ・・・僕に、いい考えがあります。」
そう言って大野氏は、茂に耳打ちしたのだった。




