第103章:ナレーターが語る、さかのぼったエピソード(6)
茂と葉子の関係は、ますます深く、結びつきの強いものになっていった。
その一方、彼はまた、1号店での出来事が、いまだ拭い去れない「悪夢」として、常に心に張り付き・・・漠然とした不安を抱える毎日を過ごしてもいた。
葉子との、一見おだやかで甘く、そして平和な日々・・・。
しかし・・・そうした彼らに、またもヒタヒタと忍び寄る複数の黒い影。
それが表出してきたのは、ある青年の発した言葉がきっかけであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
・・・1996年2月上旬。
この日、臨時の青年部の集まりが終わった後、茂が2階廊下を歩いていたときのこと。
いそいそと帰り支度を始めようと、自分の部署に向かっていた茂に、ひとりの青年が話しかけてきた。
・・・名は、「大野孝」。
茂よりひとつ下で、5年先輩に当たる人物だ。
去年の3月で、県南の佐野支所に異動していった、あの桑川の後任だった。
「杉山さん・・・ちょっと話があるんですが。」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
それから30分後・・・「オリオン通り」のカフェで、コーヒーを飲みながら話す二人の青年。
「・・・大野君。僕に、いったい何の用だい? あまりこんな場所で、お金と時間を無駄遣いしたくないんだけどね、僕は。」
「いきなり僕のいきつけに連れてきて、すみません。・・・でも、僕、どうしても黙っていられなくて・・・。」
「えっ? ・・・いったい、それは、何の話なんだい??」
「しっ! 声が大きいですよ。どこに『スパイ』がいるか、分かったもんじゃないんですから・・・!」
茂は、この『大野』という、これまでの青年部の総会で会った事があっても、ほとんど記憶にない、印象の薄い青年が、自分にとって、何か重要なメッセージを伝えようとしているのを、直感的に感じた。
そして、このあと語られる、彼の打ち明ける極秘の内容が・・・ふたたび茂と葉子の運命の歯車を、大きく狂わせることになってゆくのだった・・・。




