第9話 友との語り合い(ヴィルティス視点)
騒動が起こってからの休日、静かな自室にコンコンコンと軽快なノック音が響く。
(俺の部屋に来るのは彼しか居ないか)
確認せずにガチャリと扉を開くと驚いた顔のゲイルが立っていた。
「ちょっとヴィル?いくら何でも不用心過ぎない?」
「いや、俺の部屋を訪ねてくるのってゲイルぐらいだから…」
ゲイル・ウォーレン。
侯爵家の跡取りでありながら妾の子である俺を友達だと言ってくれる、変わり者だが俺が信頼出来る数少ない人物だ。
「学園の寮とは言え、訪ねてきた人は確認しなよね」
半分呆れながらお説教するゲイルを招き入れ、返事をしつつお茶の準備をする。
ゲイルが俺の所に来たと言う事は、バールナー辺境伯家への報告と返答の件だろうから。
「今回の事でゲイルにも迷惑をかけた上に、父上への報告も任せてすまない」
「いいって、僕もヴィルに纏わり付く噂は何とかしたいって思ったてたから、ヴィルのお父上とは話しを付けてきたからね!」
お茶の入ったカップを受け取った後、グッと親指を立てて得意そうに笑うゲイルには感謝しかない。
本来なら俺があの騒動を、バールナー辺境伯家へ報告するのが筋なのだがゲイルが『ヴィルが行ってもあのご家族がちゃんと話しを聞いてくれると思う?』
と鋭い指摘をし、俺の代わりに報告と、俺には非が無い事を証言してくれる運びになった。
因みに学園のある王都から辺境伯家が治めるスエーベル領までは結構な距離がある筈なのに、たった2日目で戻って来れたのは馬車に侯爵家特注の風属性の魔法具を取り付け、とんでもないスピードで往復したらしい。
「ヴィルに非が無い事はちゃんと理解して貰えたよ
って言うか絶対あの義兄達がヴィルの事を広めたのが原因だと思う、僕の話しを聞いてすんごい焦ってたし」
「まぁある程度予想はしてたけどね、やっぱりか」
別に悲しいとは思わない、学園を卒業したらあの家族とは縁を切るから。
(その為にも婿入り先を見付けるか、一人で生きて行ける術を身に付けないと)
ふとある女性が脳裏を掠めるが、頭を軽く振ってその考えを追い出す。
それよりも……。
「ゲイルには任せっきりにしてしまったし、何かお礼したいんだけど…」
「え〜?別にそんなの良いのに…あっ!でも一つあるかも!」
キラキラと顔を輝かせるゲイルにホッとしながら、自分で淹れたお茶を飲む。
(良かった、何か返せそうで)
「リリア嬢の事どう思ってる?」
「っ!? ゴホッ!ゲホッゲホッ!」
予想外の質問が飛んできて、飲んでたお茶で盛大に咽てしまう。
何で今リリアの話しになった!?
「ちょっ…大丈夫!?」
「ゴホッ!誰のせいだと…」
背中を擦られ呼吸が少しづつ落ち着いてくる。
「ごめんって、でもさぁ保健室から帰ってきたら、お互いの呼び方が変わってたら誰だって興味は湧くでしょ?」
「あれは…リリアと友達になったから」
「『友達』ねぇ?」
……何だその含んだような言い方、まさか!
「ゲイル、お前リリアに気があるんじゃ…」
「ないないない!何でそんな考えになるの!?」
ただヴィルとの関係性に興味があるだけだと言われて、少し安心する。
(まぁ安心してる時点で俺はもう…)
「さっきも言ったように友達なだけだよ」
「……本当に?」
「今日はちょっとしつこくないか?」
「お・れ・い!」
「ぐっ…ちょっと待ってくれ」
次からお礼をする時は、物品限定だと先手を打つことにしようと心に決める。
(リリアをどう思っているか、か…)
さっき婿入り先の事を考えてた時に、ふと浮かんだ女性を思い出す。
ミルクティー色の髪に蜂蜜色の瞳をした、優しくて強い可愛らしい人。
多くの人が好奇な目で見る俺の瞳の色を綺麗だと、好きだと言ってくれた。
俺が一人にならないように、食事に付き合ってくれた。
妾の子として産まれたのは俺のせいではないと、多くの人の前で叫んでくれた。
(こんなの、好きにならない理由がないだろう)
答えは出てるんでしょ?と、紅玉の様な赤い瞳を細めて笑うゲイルに、降参だと両手を挙げる。
「うん、好きだよリリアの事、友達としてじゃなくて恋愛感情として」
我ながら単純だとは思うけどね、と自嘲気味に話すけどゲイルは「そんな事ないよと」否定してくれた。
「人を好きになるのに高尚な理由なんて要らないんじゃないかな?一目惚れって言葉があるぐらいだし」
そう言うものなのかなと俺自身も納得しながら、ゲイルに満足の行く答えかと尋ねる。
「うん!リリア嬢なら安心してヴィルを任せられると思うし」
「…何だって?任せられるってどう言う意味だよ?」
俺の問にゲイルが気不味そうに頬を掻く。
「あ〜、だってこの学園生活が終わったら、君と中々会えなくなっちゃうから」
「…あ」
そうか、ゲイルは卒業したら本格的にウォーレン侯爵家の跡取りとして忙しくなる。
(それに俺はバールナー辺境伯家を出て行く事になるから、今までのように気軽に会えなくなるのか……あっ!)
「たからリリアに俺を任せられるって!?」
「そう!ヴィルの事を思って行動出来る良い子だし
サルヴィーニ伯爵家の後継者ってリリア嬢一人だけなんでしょ?」
「あぁ、だから俺がリリアに近付いて、伯爵家を乗っ取ろうとしているって噂が出たみたいだ」
「なら彼女は伯爵家の後継者として、お婿さんを探さないといけない、そしてヴィルは婿入り先を探している…お互いの条件ピッタリ!!」
勿論リリア嬢から良い返事を貰えればだけどね!と笑うゲイルに頭を抱える。
(つまりゲイルは俺の未来が不安定だけど自分じゃ助けになれないから、リリアの所に婿入りすれば安心だと言いたいんだな)
もしリリアと結婚してこの先の未来をずっと一緒に生きていけたら、これ以上の幸せはないと思う。
(けど…)
「リリアには『サルヴィーニ伯爵家乗っ取り』の噂で迷惑をかけてしまったし、その上俺に好意を向けられても困らせるだけなんじゃないかな?」
あんな事があっても友達だと言ってくれてるのに、その気持ちを裏切ってしまうんじゃないか、そうしたら友達ですらいられなくなるかもしれない。
「いや何も今直ぐ告白して、恋人になれって言ってる訳じゃないんだよ!?」
ちょっと思考が暴走気味になってしまった俺をゲイルが止めてくれる。
「まずはこのまま友達として親交を深めながら、リリア嬢にヴィルの事を意識してもらう感じで良いんじゃないかな?」
「……意識してもらうって、どうやって?」
「………さぁ〜?」
「おい!?」
「だって僕も婚約者どころか恋人もいないんだから、月並みのアドバイスしか出来ないよ〜」
そう言えばゲイルも相手がいなかったな。
少し落ち込む俺を励ますようにゲイルが声を上げる。
「でもそんなヴィルにとって、タイムリーな噂が流れてるんだけど?」
「また噂か、今度は何なんだ?」
「ヴィルとリリア嬢が恋仲ではないのかって噂」
……は?
「何でそうなる!?」
『サルヴィーニ伯爵家乗っ取り』の噂はどこ行った!?
「いや〜僕も驚いたよ、ここに来る前にゴリーラッド先生に報告しに行ったんだけど、学園って休日でも開放されてる所があるでしょ?」
「まぁ寮生の為の食堂や、休日でも勉強をしに図書館を訪れる生徒は居るね」
「その生徒たちが話してたんだよ、リリア嬢は友達の為に一人で悪評に立ち向かった勇敢なるご令嬢って
そしてその中に、本当はヴィルと恋仲で愛の為に立ち向かったって言ってる人達も居たんだよ」
ゲイルの話しに呆然としてしまう。
何というご都合主義な話しなんだ、あれだけ俺の悪評を噂しといて今度は勝手に恋愛話しの対象にするなんて…。
「大丈夫なのかこの学園は?」
「それは僕もそう思う、でも噂が流れてる以上、当事者であるリリア嬢の耳には確実に届くよね」
「またリリアに迷惑をかけてしまうのか」
明日話しを聞いた彼女がどんな反応をするのか、少し怖い。
「まぁ戸惑っちゃうとは思うけど、あんまり話しを広げないで『噂なんて直ぐに収まる』ってフォローを入れたら良いと思うよ?」
「あぁ…そうするよ」
良い噂も悪い噂も、当人以外が流して時間と共に消えていってしまうもの。
(だから俺がどう考えて、どう行動するかが大事なんだ)
「ありがとうゲイル、気付かせてくれて」
「うん、僕もヴィルに良い出会いがあって良かったよ」
それじゃあそろそろ帰らなきゃと、立ち上がるゲイルを見送るために玄関へ向かう。
「ゲイル」
「ん?」
「もしゲイルにも良い出会いがあったら教えて欲しい、俺でも力になれるかも知れないから」
俺だってお前の助けになりたいんだぞと伝えると、
「じゃあヴィルに一番に伝えるね」と嬉しそうに笑って帰って行った。
噂の広まった明日からどうなるかは分からないけど、
取り敢えず今は出しっぱなしのカップを片付けるのが先だなと、部屋の中へと戻った。
いつも読んで頂きありがとうございます!
思ってたより自覚の早いヴィルティス。
ゲイルは初期の設定ではリリアに興味を持ってちょっかいを出すライバルだったのに、書き直しを繰り返してる内に気の利くお友達にジョブチェンジしました。




