第7話 保健室での願い
(うわぁ、怒ってるよなぁ)
無言で手を引くヴィルティスに申し訳ない気持ちになる。
双子を止めるためとは言え、叩かれるまで詰め寄ったし、ヴィルティスの家に報告する形になってしまったもんな。
(でもここまでしなきゃヴィルティスがサルヴィーニ伯爵家を乗っ取るって噂が広がりそうだったんだよ)
「あの、ヴィルティス様、申し訳ございません」
怒ってますよね、と謝罪の言葉を口にするとヴィルティスが慌てて振り返った。
「リリア嬢は悪くないよ!俺の方こそ…いや俺のせいで君を巻き込んでしまって本当にごめん!」
(あれ?)
「怒っているのではないのですか?」
じゃあ何で無言だったんだよ!?
俺の疑問にヴィルティスがふるふると頭を振って否定する。
「本当は直ぐに助けに入るつもりだったんだ、でもゲイル…一緒に居た友人にもう少し様子を見ようって止められてて、
まさか君が叩かれるなんて…怒ってるのはリリア嬢じゃなくて、ゲイルを振り切ってでも助けられなかった自分になんだ」
あぁ、何だそう言う事か、でも俺も売られた喧嘩を買ったみたいな感じだからなぁ。
どうしたもんかと考えてると、手を握ってない方の手で、すっと腫れた頬に手を添えられた。
(ふぁ〜〜〜!?)
「えっ?ヴィ…ヴィルティス様!?」
「君が叩かれるのを見て、心臓が止まるかと思った」
(俺は別の理由で心臓が止まりそうですけど!?
止めて!切なそうな顔で見ないで!)
あぁもう!久々だけど厄介だなチョロイン属性!
絶対に頬以外も赤くなるって!
一人で狼狽えてると近くの扉がいきなりガチャって開いて更に驚く。
「あなた達!保健室の近くで何騒いでるの!?」
(あっ保健室の先生か、近くまで来てたんだなってか保健室って引き戸のイメージだったけど押戸なんだ)
そんな事を思っていると、ヴィルティスに前に出される。
「騒いですみません先生、彼女の治療をお願いしたいのですが」
「あらやだ!どうしたのそれ?」
俺の頬を見て驚いた先生が保健室に通してくれる。
湿布でも貼ってくれるのかと思ってたら、座らされて差し出されたのはポーション。
「ポーション!?」
「あらポーション見るの初めて?低級だけど不味くないから大丈夫よ?」
いやポーションは領地で薬草と共に見慣れてるし、味もリリアが飲んだ記憶があるから知ってるけど…。
「あの、このぐらいなら湿布で大丈夫なのですが」
「何言ってるの!? 女の子のほっぺが腫れたままで良い訳ないでしょう?」
つべこべ言わないで飲みなさいと手渡されてしまったので、ぐいっと一気に飲み干す。
そして引いていく腫れと痛みにちょっと感動する。
(う〜ん、でも記憶にもあるけど薄めの栄養ドリンクみたいな味だな)
不味くはないけど美味しくもないんだよねと感想を抱きながら、お礼を言って空になった容器を先生に返す。
「うん、腫れもしっかり引いたようね、それにしてもどうしたの?叩かれたみたいだけど相手の対応は?」
「いえ、ちょっと彼女がトラブルに巻き込まれまして…相手はゴリーラッド先生と話し中です」
本当は巻き込まれたと言うより中心人物なんだけどね、ここはヴィルティスに任せよう。
「あらぁ大変だったのね、でもゴリちゃんなら任せて安心だわ」
ゴリちゃん!?
えっ?保健室ってイベントでもほぼ来ない場所だったから知らなかったけど、ゴリちゃん!?
どういう関係だ!? と驚いてる俺を余所に「あなた達も後で話しをしに行くの?」「はい、この後生徒指導室に向かいます」と会話を続けている。
(だよな、当人である俺も行かないとだよな)
「それなら私がゴリちゃんに、治療が終わった事を知らせに行ってあげるわ!」
「はい?」
二人の会話にうんうんと頷いてたら、先生がそう言って立ち上がった。
(それならって何!? 何で先生がゴリ先の所に行くの?)
ヴィルティスも不思議に思ったのか「このまま向かうので大丈夫です」って言ってるけど、先生が制する。
「駄目よ〜?あなた達さっき保健室の外で何か言い合ってたでしょう?
こう言うのは後回しにしちゃうと話し難くなっちゃうから、今の内に解決しちゃいなさい」
(えっ?えっ?)
「せっ…先生?」
「もう殆んどの生徒が帰っちゃったみたいだし、利用者も来ないだろうから大丈夫よ!後、私歩くの遅いからごゆっくり〜」
慌てる俺をスルーして、爽やかな笑顔でサムズアップしながら扉の向こうに消え行く先生。
ヴィルティスも「ありがとうございます」って礼してるし!
待って!先生のその気遣いの仕方すっごい素敵だと思うけど、今は待ってここに居て!ヴィルティスと二人っきりにしないで!
しかし先生は既に行ってしまった、その代わり先生がさっきまで座ってた椅子にヴィルティスが腰を下ろす。
つまりは対面。
(ぐぅ!さっき頬に触れられた手の感触を思い出すな俺!)
「リリア嬢」
「っはぁい!」
必死に先程の記憶を追い出そうとしていると、いきなり名前を呼ばれて勢い良く返事をしてしまった。
「あっ…」
「…っふ」
そのまま固まってしまった俺に堪えられなかったのか、ヴィルティスが軽く吹き出す。
「くっ…すまない、でも…いい返事で…ふはっ」
「ちょっ…ふふっ…ヴィルティス様、そんなに笑わないで下さい」
必死で笑いをこらえるヴィルティスに、俺も可笑しくなって笑ってしまう。
(恥ずかしいけど、変な空気は和らいだな)
まぁ俺一人が意識しちゃってる感じはあるけど、話しやすくなったので助かった。
ひとしきり笑いあった後、コホンと咳払いして居住まいを正す。
「リリア嬢さっきの話しだけど、謝るのはお互いにもう無しにしよう」
「そうですね、分かりました」
(うん、俺もそれは賛成だ)
ごめんなさい、いいえこちらこそを繰り返してもキリがないもんな。
「良かった、じゃあ話しは変わるんだけどリリア嬢と双子が話していた事で…」
(双子と話してた事?…あぁっ!あれか?)
「ヴィルティス様がサルヴィーニ伯爵家を乗っ取ろうと言う話しなら、私は信じてませんよ?」
「確かに君の家を乗っ取るつまりは毛頭ないけど、
俺が言いたいのはその後の話しなんだ」
(えっ?違うなら何だ?その後?)
「俺が妾の子に産まれたのは、俺の責任じゃないって言ってくれたよね?」
「言いましたね、子供が産まれたのは親の責任なのに、何故ヴィルティス様が責められているのか不思議だったので」
成る程そっちか、俺の言葉を聞いたヴィルティスが続ける。
「リリア嬢が双子に言い返してくれたのを聞いた時、目の前が明るくなった気がしたんだ、そんな事を公言してくれる人って今まで居なかったから」
「先程おっしゃってたご友人のゲイル様は?」
俺の質問にヴィルティスがふるふると首を振った。
「ゲイルは俺の事を気にかけてはくれているけど、
侯爵家の家の者として、あまり妾の子を庇う発言は出来なかったと思う」
(成る程ねぇ、俺の知らない侯爵家の事情もあるんだろうな)
「この間の瞳の事も含めて、君の言葉に俺は何度も救われたんだ、本当にありがとうリリア」
「いえ、私はそんな大した事なんて…え?」
今、リリアって
「友達って言ってくれただろう?なのに『リリア嬢』って呼び方は距離を感じるなって思って…これからはリリアと呼びたいんだけど良いかな?」
友達?…言ったわ!ゴリ先に説明する時に言ったわ!
でも呼び捨てって早くない!? まだ入学して間もないよ!? でもそんな…そんな不安と期待が混ざった顔で言われてNOとは言えないだろぉ〜!
「いっ…良いですよ?」
「良かったぁ!じゃあ俺の事もヴィルって…」
「それは無理です!」
流石に伯爵家の俺が、辺境伯家のヴィルティスを愛称で呼べないって!
あぁっもう残念そうな顔するなよ!
「ではヴィル様で…これ以上は譲れません!」
「う〜ん、少し残念だけどリリアを困らせたい訳じゃないからね」
めっちゃ困ってるよ!しかし何とか納得してもらえたな…ってか俺ヴィルティスの顔に弱くない!?
いや違う!コレはチョロイン属性のせいだ!
「あぁそうだ、俺『薬学クラス』に入る事にしたよ」
一人で内心頭を抱えていると、呼び方の話しから選択クラスの話題になった。
(えっ?何でこのタイミングで選択クラスの話しを?
しかも俺と同じ『薬学クラス』?)
「ヴィル様が『薬学クラス』に?」
「うん、リリアの力になりたくて」
「……私の?」
「リリアは何度も俺を救ってくれたから、だから今度は俺が君の力になりたいんだ、薬学の知識は君よりだいぶ劣っていると思うけど頑張って追い付くから、
だから…リリアのそばに居させて欲しい」
……そばに居たいって、告白じゃん!?
いやいや違う違う!友達って言ってたから!これはあれだ、そのまんまの意味で恩返ししたいって事だよ!
(あぁ、もう駄目だ!頭がパンクしそう!先生早く帰って来てぇ〜!!)
ヴィルティスの言葉に何とか頷きながら保健室の扉が開かれるのを、今か今かと待ちわびた。
いつも読んで頂きありがとうございます!
今回のタイトルの『願い』はリリアのそばに居たいヴィルティスと、先生に早く帰って来て欲しいリリアの二人分の願いを表してます。




