第6話 誰にだって許せない事はある
「今日は午前の授業だけだからか人があまり居ないね」
「静かで良いじゃないですか」
教室の一角で昼食を食べながら周りを見る。
あの一件の後、ヴィルティスは食堂ではなく購買で買った物を人気なのない所や教室で食べるようになった。
教室の生徒は顔と名前が分かるから表立って噂話しもしないんだろうな。
そして俺もそんな彼の食事に付き合ってたりする。
(一人で食べてもつまらないもんな、ってかヴィルティスって友達キャラ居なかったか?
俺が居ない時に一緒に居るのかな?)
キャラと言えば他の攻略対象にも会えて無いんだよな、クラスが別だし、まだ数日しか経ってないから仕方ないけど。
(そう言えばコイツ、まだ選択クラスの希望書を出してないみたいだけど、他の攻略対象には出会ってるのかね?)
「まぁ今日は教室で食べても帰るだけなんだけどね」
食べ終わったゴミを片付けながらヴィルティスが立ち上がる。
「俺は隣のクラスに寄ってから寮に戻るけど、リリア嬢は?」
「私は図書館に行ってきますね」
おぉ、隣のクラスって事は友達キャラか他の攻略対象か?
気になるけど邪魔しちゃ駄目だしな、因みに学園内には図書専用の建物が校舎の横に建っているので、図書室ではなく図書館と呼ばれている。
(ネットもスマホもない世界じゃ読書が数少ない娯楽なんだよね、それにだだっ広い空間に大量の本が収まられてる光景は見てても楽しいし)
それじゃあまたと、ヴィルティスと別れて図書館へと向かうと聞き覚えのある『クスクス』した笑え声が聞こえた。
(うわ〜出た〜)
入学式に絡んできた双子のローズ&マリー姉妹、ずっとヴィルティスと一緒だったしクラスも別だから会う機会なかったんだろうな。
「何か用かしら?」
ヴィルティスは辺境伯家の令息だから敬語で話してたけど、同じ伯爵家の2人にはタメ口で良いだろう。
(前は前世の記憶に捕らわれかけて動けなかったけど、今この世界に俺の事を知っている人は居ないんだ)
だから大丈夫なんだと少し強めの声色で問えば、双子は少し驚いたようだ。
「やだローズお姉様、リリアの声が怖いですわ」
「あらあらマリー、私達はリリアを思って来たのに心外ですわね」
「…私を思って来た?」
(あんなに田舎者とか薬草臭いって馬鹿にしてたのに?)
どういう風の吹き回しだ?と警戒していると双子が口を開く。
「貴女、バールナー辺境伯家のご令息と懇意にされてるようですが、騙されてますわよ」
「お姉様が気付かないリリアがあまりにも可哀想だからって教えてあげる事にしたのよ、感謝なさい!」
……何だって?
懇意にしているはともかく、騙されてるって何の事だ?
「ヴィルティス様が私を騙すってどういう事よ?」
「あぁっ本当に何も知らないみたいですわね、彼は妾の子の分際で婿入り先を探しに学園に入ってきましたのよ、何て卑劣な!」
「そしてその事を隠して都合の良さそうな貴女に目を付けたのですわ!」
(なんだもう(俺が)知ってる内容じゃん、何かと思ったわ)
しかしこの双子の言い方は気に食わないな。
この世界じゃ婚約者の決まってない年頃の貴族の男女は、学園内で相手を探す事も不思議じゃない、それはリリアもこの双子も同じな筈なのにヴィルティスが妾の子ってだけで酷い言い方だ。
「二人共落ち着いて、婚約者が決まってない人達が学園内でお相手を探す事は何も可怪しくはないわ、
それにバールナー辺境伯家のご子息に向かってその発言は問題になるんじゃないかしら?」
取り敢えず落ち着かせなくては、伯爵家の令嬢が爵位が上の辺境伯家への問題発言をしたと受け止められたら大変な事になるぞ。
俺としてはこの双子がどうなってもどうでも良いが、騒ぎが大きくなるのは面倒くさくなるので勘弁願いたい。
(実際双子のせいで人が集まって来てるじゃん!)
しかし俺の願いとは裏腹にヒートアップしていく双子は止まらない。
「まぁまぁリリアったら!せっかくお姉様が心配して下さっているのに、下民の血が混ざった者の肩を持ちますの!?」
「きっと彼はサルヴィーニ伯爵家を乗っ取る気ですわ!!」
「……は?」
何だそれ?あまりにも酷い言葉に思わず声が出る。
集まった生徒達も『そうなの?』『やだ怖い…』って
またヒソヒソしだすしで…。
そもそも何でこの双子はヴィルティスへの暴言を俺に言ってるんだ?
リリアはともかく、この2つの家は繋がりなかったと思うけど…。
(あぁ、入学式か?)
多分俺との間に割って入られたのが気に食わないんだ。
でもヴィルティスは辺境伯家の者だから、面と向かって文句を言う事が出来ない。
(だから俺に向かって言うことで発散させてるのか、
やる事セコすぎない?子供の喧嘩か!?)
あぁ、そう言えば子供だったわ、ここに通うのは今年16〜18歳になる高校生ぐらいの年齢だもんな。
(でも言って良い事と悪い事は分かるだろう!)
話しがどんどん大きくなって、有りもしないヴィルティスの噂が流れるのは何としても止めたいし、今までの発言は許せない。
(争い事を好まないリリアがするような行動ではないけど、このまま好き放題されてたまるか!)
すぅっと大きく息を吸い込み。
「いい加減にして!!」
双子より大きい声を出して言葉を止めてやる。
ついでに周りの生徒達も驚いて静かになったな。
「えっ?」「リリア?」
戸惑う双子を無視して一歩近づく。
「貴女達、さっきからヴィルティス様の有りもしない話しをしてるけど、私はご本人からそんな話し一度も聞いていないわ!」
また一歩。
「そんなに騒ぐのなら、貴女達がヴィルティス様に直接聞いてくれば良いじゃない、サルヴィーニ伯爵家を乗っ取る気ですか?って」
また一歩。
「出来ないわよね?相手は辺境伯家のご子息ですもの!だから私を通して言っているのでしょう?」
また一歩近付いた所で、ローズが口を開く。
「でっでも彼は妾の子で…」
「それが何だって言うの?」
「えっ?」
また一歩。
「彼が妾の子だからって、貴女達に何か迷惑をかけたの?
妾の子に産まれたのは彼の責任じゃなのに、どうして彼を責めるの!?」
そう、これが一番許せない。
ヴィルティスが産まれたのは父親が正妻以外に手を出したのが原因なのに、何故かヴィルティスだけが非難の対象になる。
「ヴィルティス様は優しい人よ?
一緒にいる私が自分のせいで嫌な思いをしないか気にかけたり、多くの人の目に触れる食堂で食事をするのを避けたり、
本人に言う勇気もなくて噂話ししかしない貴女達とは違うわ!」
俺の言葉に双子だけではなく、周りの生徒達も息を呑むのが分かった。
(そうだぞ、お前達にも聞こえるように言ってるんだぞ)
また一歩、最後はローズに向かう。
「これが貴族のする行いなの!? 恥ずかしいと思わないの? 貴女達の方がよっぽど卑劣よ!!」
「ローズお姉様に何て事を言うのよ!!」
パァン!っと派手な音と共に左の頬に痛みが走る。
(よしっ!引っかかった!)
ローズが大好きなマリーなら、ローズに詰め寄ると何かしら行動に移すと思ってたよ。
「マリー!!」
ローズが慌てるけどもう遅い、俺に平手打ちしたのはここに居る生徒が全員見てるんだよ、学園内で暴力沙汰は大問題だもんね。
「何だこの騒動は!? 何があった!?」
おぉ!以外に早かったなゴリーラッド学年主任、通称『ゴリ先』が生徒を掻き分けて来て、俺の腫れてきた頬を見て驚いた。
ここぞとばかりに叩かれた頬に手を添え俯いて肩を震わせる。
「かっ彼女達が、ヴィルティス様の事を妾の子だから私に近付いて、サルヴィーニ伯爵家を乗っ取る気だって、有りもしない話しをしだして…私っ友達が悪く言われて許せなくて、言い返したらマリーさんが…」
どうだい?この見事な演技、双子が慌てて弁明してるけど、手を上げた以上言い逃れは出来ねえよな。
「先生!信じて下さい!リリアは嘘をついて…」
「いえ、リリア嬢が言ってる事は事実ですよ」
いきなり聞こえた第三者の声にその場に居た全員がそちらを向く。
(あっ!ゲイル・ウォーレン!)
ヴィルティスの友達キャラで侯爵家子息、彼の証言を得られるのはデカい!
「それは本当かね?」
「えぇ、しっかりと見てましたから、ねっヴィル」
(…えっ?)
ゲイルの後ろからヴィルティスが顔を出す。
あぁ~双子の暴言、聞かれてたのか…。
「あまり問題を起こしたくはなかったのですが、この一件はバールナー辺境伯家へ報告しようと思います」
ヴィルティスのこの発言に、双子は血の気の引いた顔になり、周りの生徒達もざわめき出した。
(そうだよなぁ、自分達も噂しまくってたもんなぁ)
「そうだな、取り敢えず君達姉妹は生徒指導室へ来なさい、話しはそこで聞こう」
「あっ僕も証人として同行しますよ」
「先生、俺はリリア嬢を保健室に連れて行きます」
俺の手を握ってヴィルティスが申し出る。
いや一人で行けるんですけど?
「分かった頼んだぞ、ほらっ残りの者は戻りなさい!」
先生の一声にゾロゾロと生徒が散らばる中、無言のヴィルティスに手を引かれ、保健室に連れて行かれる事になった。
いつも読んで頂きありがとうございます!
切りの良いところまで書こうとして、切りの良いところが分からなくなりました(汗)
次回、保健室の続きからになります。




