第28話 告白未遂
「予想以上に義母が騒いでしまって…ごめんねリリア怖くなかった?」
「驚きはしましたけど、ゲイル様に教えて貰っていた情報のおかげで切り抜けられましたし、私は大丈夫です」
バールナー辺境伯家へ婚約の挨拶が終わって、今は
ヴィルティスに宿屋まで送ってもらっている最中だ。
(最初はどうなるかと思ったけど、上手く話しを終えられたから上出来だよね)
「……リリアは本当に強いね、それなのに俺はあの人に怯えてしまって…本来なら君を守らないといけないのに情けなさ過ぎるよ」
そう言って肩を落とすヴィルティスの手を、ギュッと両手で包み込む。
「リリア?」
「情けなくないです!私はカミラ様が出されてた空気に気圧されて本当は早く帰りたいと思っていたのに、ヴィル様は5年以上も耐えていたのですよ?
理不尽な状況でも負けなかったヴィル様も、私は強い人だと思います」
前世の時の俺は、恋愛のトラウマもそうだけど両親からの重圧や、兄と比べらるのに耐えられなくて逃げたんだ。
(それ思うと逃げなかったヴィルティスは凄いよ……
おっ!冷たかった手も元に戻ってきたな)
温かさを取り戻した手に安心してヴィルティスの顔を見上げると…何故か目に涙を浮かべて泣く寸前の顔になっていた。
「えっ?ヴィル様?」
「ごめんリリア…ちょっと待って…」
袖で目を擦ろうとしていたので慌てて止める。
「擦ってしまったら目が腫れてしまいます!
一旦、私達が泊まっている宿屋に行きましょう」
それに道のど真ん中じゃ目立ってしまうからと、ヴィルティスの手をそのまま引いて宿屋へと向かった。
「――お帰りなさいませリリアお嬢様、そちらの方は?」
「ただいまレミーナ、帰ってきていきなりで悪いのだけれど、彼と二人にして欲しいの」
出迎えてくれたレミーナが連れてきたヴィルティスを見て驚いたが、俺達の様子を見て察してくれたのか「かしこまりました、何かあればお呼びください」
と一緒に居た護衛の人達を連れて部屋を出てくれた。
「……私も出た方が良いですか?」
(泣いている姿を見られるのも嫌だろうしな)
そう思って提案したけど首を振られたので、ならせめて座って休ませようとソファの方へ移動しかけた時、いきなりヴィルティスに抱き締められてビックリする。
「ちょっ!? ヴィっヴィル様!?」
「ごめんリリア、ごめん…少しだけこうさせて欲しい」
抱き締める腕も震えていて、鼻声でそんな事を言われたら突き返せる訳がない。
(でも、これってどうするのが正解だ!? 背中に腕を回した方が良いのか!?)
手の行き場に困ってオロオロしてたけど、声を殺して泣いているヴィルティスを何とか宥めたくて、そっと抱き締め返した。
「――本当にごめんねリリア」
「いっ…いえ…」
暫くして落ち着いたヴィルティスが、スッと身体を離して申し訳なさそうにしている。
(何かずっとしょんぼりしてるの珍しいな…それだけバールナー家で辛い目に合ってたのか)
涙を拭く為のハンカチを渡して、取り敢えず休もうとソファに座らせるとヴィルティスがポツポツと話し出した。
「バールナー辺境伯家で暮らすようになってからね、ずっと心が苦しかった…瞳の色の事を気味悪がられたり、妾の子だと貶されたり…」
「ヴィル様…」
「家の付き合いが切っ掛けで友達になったゲイルには凄く助けられたけど、前にも話した通りウォーレン侯爵家の跡取りとして大っぴらに俺を庇う事は出来なかったからね」
(そう言えばゲームでの会話で、ゲイルの父親は地位や血統を重んじる人だって話があったっけ…そりゃ表立ってヴィルティスとバールナー家の仲を取り持つ事なんて出来ないわな)
「それでも衣食住は与えられたし、学園に入学する為の教養もつけさせて貰った…母を失って路頭に迷うよりは良い生活をさせて貰えているんだから、これぐらいは耐えないとって我慢してたんだ…」
そこまで言ってから、ヴィルティスが俺の方へ向き直る。
「でも今日リリアがあの人に立ち向かってくれて、そして俺の事を強いって言ってくれて…何だかこれまでの5年間が報われたなって思ったら感情が込み上げて来ちゃったんだ」
ビックリさせちゃったね、と照れて頬を掻くヴィルティスに大丈夫だと答える。
「それだけヴィル様が頑張ってこられたのですから…あっ目が少し腫れてしまってますね」
「擦ってはないんだけど、見て分かるぐらい?」
「顔を合わせたら分かるぐらいですね」
(でもこのまま帰ったら、家の人に怪訝に思われるよな)
どうしようかと考えていると、ヴィルティスが持ったままのハンカチが目に入った。
(そうだ!)
「ヴィル様、少しだけそのハンカチを返して頂けますか?」
「えっ?濡らしちゃったし洗ってから返すよ?」
「いえ、ちょっと試してみたい事があるので」
そう言ってハンカチを返してもらい、取り出した杖の先を包んで集中する。
(ハンカチを湿らす程度に少しだけ…)
そしてハンカチが『聖水』で少し湿った段階で魔力を止める。
「ヴィル様、これを目に当てて下さい」
『聖水』で少しキラキラしているハンカチを手渡して目に当てて貰うと「あっ凄い」と感嘆の声が上がった。
「目に当てた瞬間から腫れが引いていくのが感じられたよ」
ハンカチを外したヴィルティスの目元は、泣いてたと思えないぐらいにスッキリしていた。
「『聖水』が目の腫れにも効いて良かったです」
「でも贅沢過ぎる使い方だよね」
苦笑するヴィルティスは、どうやらいつもの調子を取り戻したみたいで安心する。
「良いじゃないですか、加護持ちの婚約者の特権ですよ?」
「それじゃあその特権に甘えておこうかな」
そう笑いあった後、ふとヴィルティスがまた申し訳なさそうな顔になる。
「でもうちには作戦の事を伝えてないとは言え、リリアに嘘をつかせてしまったよね…」
(あ〜ヴィルティスとずっと一緒に居たいとか、結婚を許して欲しいってやつか、でも…)
「嘘を言った訳ではないですし」
「えっ?」
(この先もヴィルティスと一緒に居たいって思うのは本心だし…でも今これを言うと困らせるよなぁ)
実質告白になってしまうから、まだ一歩を踏み出せない俺は何か別の言葉がないか考えてて、ヴィルティスの様子に気付けなかった。
「リっ…リリア?」
「はい?…あれ?」
どう言う事か、ヴィルティスが真っ赤な顔で狼狽えている。
「ヴィル様?」
「さっきの話し本当?」
「えっ?」
「両親に言ってた台詞が嘘じゃないって」
(ん?確かに嘘じゃないって思ってるけど、何でヴィルティスが知って……えっ!?)
「声に出てましたか!? あっ!」
しまったと思って手で口を覆うけど、もう手遅れみたいだ。
赤い顔のまま嬉しそうにしているヴィルティスに俺の顔も熱くなるのが分かる。
(何で何で!? 何で声に出しちゃったの俺!?
そんで何でヴィルティスはそんなに嬉しそうなの!?
えっ?まさか!?)
まさか…まさかヴィルティスも俺の事を?
バクバクと心臓がうるさい、風船じゃなくて心臓が破裂しそうだ。
「リリア…俺も君の事…」
「まっ…待って下さい!!」
ヴィルティスが何か、恐らく決定的な事を言いかけるのを慌てて止める。
「えっ?」
「あのっまだ私、覚悟が出来てなくって…」
(あぁっ!俺のヘタレ!! でもこのまま流されても駄目な気がするし)
「私の中で答えが出るまで待って貰っても良いですか?」
「えっ?じゃあ俺、この状態で君のご両親に挨拶しに行くの!?」
(本当に申し訳ねぇ!! でも俺の両親は作戦の事を伝えてあるから!!)
どうしようとアワアワしていると、ポンと頭に手を乗せられる。
「でも俺も急過ぎたよね…泣いたりして感情が昂ぶってたし…分かった、リリアの中で答えが決まるまで待つよ」
「ヴィル様…」
「でもあんまり待たせると、我慢できなるなるかも」
「うっ!」
固まる俺に冗談だよと笑いながらヴィルティスが立ち上がるので、俺も一緒に立ち上がる。
「明日の朝に出発だよね?」
「あっはい、宿屋で朝食を頂いてから出るのでゆっくりで大丈夫です」
次はヴィルティスが俺の両親に挨拶する番なので、俺達の馬車に乗って一緒に行く事になっている。
(こんな事があった後で一緒の馬車に乗るのも気まずいけど、自分でやっちまった事だし仕方ないよな)
「じゃあまた明日の朝ここに来るからよろしくね」
「はい、お待ちしてますね」
そのまま扉を開けようとしたヴィルティスが振り返った。
「リリア」
「はい?」
「待ってるからね」
「……はい」
見送りは大丈夫だからとヴィルティスが帰った後、ふらふらとソファへと戻って崩れる様に座り込んだ。
(あぁ~〜!! 恥ずかしい!何やってんだよ俺!)
両手で顔を覆って身悶える。
(これ…もう告白みたいになってないか!? そんで受け入れられてるよな!? えっ!? 両思い的な感じなの!?)
顔から火が出そうに熱い、心臓もずっとバクバク鳴っているのが治まらない。
(明日、ヴィルティスの顔ちゃんと見れるかな?
あぁ、後レミーナ達も心配してるだろうから呼びに行かないと)
その為にも一旦顔冷たい水で顔を洗いに行こう、化粧が落ちてしまうけどとにかく冷やさなきゃ本当に火が出そうだ。
レミーナに化粧を落とした言い訳を考えつつ、冷たさを求めて洗面所へと向かった。
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次回は久し振りのヴィルティス視点の予定となっております。




