第27話 バールナー辺境伯家
「出来ましたよ、リリアお嬢様」
「ありがとうレミーナ」
鏡の前でくるりと周り、自分の姿を確認する。
結い上げた髪に銀細工の蝶々の髪飾り、薄く仕上げたお化粧に数日前お母様達と選んだドレスを身にまとった完璧な仕上がりだ。
ここは自宅の部屋ではなく、ヴィルティスが住んでいるスエーベル領の宿屋の一室だ。
婚約の挨拶に向かう際、お互いの領の間は1日で往復出来る距離ではないので、ヴィルティスが宿屋を手配してくれていたから一泊させてもらい、翌朝付いてきてれたレミーナに支度をお願いする事になったのだった。
(教会の事もあるし流石に女性二人だけだと危ないからと、お父様が自衛団を護衛につけてくれたから安全な旅路だったな)
「リリア様、ヴィルティス・バールナー様がお見えだそうです」
宿屋の人が訪ねて来たので護衛の人が対応してくれていると、どうやらヴィルティスが迎えに来てくれたみたいだ。
「直ぐに向かうわ、レミーナはここで待っていてね?」
「かしこまりました、リリアお嬢様もお気を付けて」
正直な事を言うと、お母様に相談したのもあってヴィルティスに会うのには戸惑いが出てしまう。
(でも約束の日を俺の感情一つで変更する訳にもいかないもんな)
よしっと心の中で気合いを入れ、護衛の人と一緒に
ヴィルティスの元へ向かった。
因みにレミーナを守ってもらう為に、護衛は二手に分かれてもらっている。
「おはようございますヴィル様」
階段を降りて宿屋の入り口まで行くと、ヴィルティスが待ってくれていた。
「おはようリリア、素敵なドレスだね」
「あっありがとうございます」
(ぐぅっ!数日振りに会った上に褒められるのは、攻撃力が高過ぎんだろ!)
「あのっ父が心配して護衛の方をつけてくれたので、お屋敷の外で待機してもらっても構いませんか?」
「うん、教会の件もあるから大丈夫、門の近くで待っていてもらおう」
ヴィルティスにキョドりそうになったのを気付かれないように話題を逸らすと、あっさりOKが貰えた。
それじゃあ行こうかと差し出された手を握り返して、バールナー辺境伯家へと向かう。
(うぅっゲームのイベントを見てるとは言え、状況も変わってるし緊張するなぁ)
立派な門構えが見えてきて少し震えそうになる。
だけどここで作戦上での婚約者だとボロを出してしまうと、最悪バールナー家の次男と婚約されてしまう可能性があるから踏ん張らないと!
「ヴィル様、参りましょう」
「うん、でも無理はしないで早目にきり上げようね」
こちらを気遣う優しい声色に緊張が少し解れた。
「――ようこそお越しいただきました!バールナー辺境伯家当主のデオン・バールナーです」
「妻のカミラです」
応接室に通された俺を待っていたのは、リリアのイベントではお目にかかれなかったバールナー夫妻の笑顔の歓迎だった。
「サルヴィーニ伯爵家のリリアと申します、本日はヴィルティス様とのご婚約のご挨拶に伺いました」
頭に叩き込んだ台詞と共にカーテシーをしながら挨拶をする。
「まぁまぁご丁寧にどうも、長旅でお疲れでは?
ゆっくりしてらしてね」
「お気遣いありがとうございます、ヴィル様に宿屋を手配して頂いたので快適に過ごさせて頂きました」
(う〜ん…ニコニコしてるけど、めっちゃ腹の中見られてる気がする…俺も笑顔が崩れそう!)
ヴィルティスにピッタリくっついた状態で着席すると、あからさまにカミラのこめかみがピクついた。
(加護持ちに選ばれたのが妾の子なのが気に食わないんだろうなぁ、ヴィルティスの方全然見ないし)
カミラの笑顔の裏に隠された怒気にビクつきながらも、婚約の話しを進める。
「しかし驚きましたな、ヴィルティスに加護持ちの婚約者が出来るなんて…我々も親として鼻が高い」
(ちょっと親父さん!奥さん睨んでるよ!自分を親としてカウントするなって目が物語ってるよ!)
まだ数分しか経ってないのに既に帰りたくなってくる。
(でもヴィルティスはこの状態での生活を5年以上続けてたんだよな、本当によく耐えてたよ)
「ヴィル様が先にお伝えしてる通り、ティアメル教会のライニール様が私との結婚を望んでおられます
今は貴族との間での揉め事で大人しくしていますが、
バールナー辺境伯家への接触ないとは言い切れませんので、どうかご注意を」
それに加えて、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんと続けると以外にもご当主は気にしてないようで、教会なんて大した事ないと笑い飛ばした。
「ハッハッハ!心配いりませぬよ我らバールナー辺境伯家は北部の国境を防衛する精鋭部隊、教会の奴等など恐るるに足りませぬな」
「そうよ、それでも心配ならいっその事こちらに嫁がれては如何かしら? ティエラ領より守りは強いですし」
「えっ?」
んんんん!?
いきなり何言ってるんだよ!?
カミラはヴィルティスを家から追い出したいんだろ!?
(ヴィルティスも親父さんもビックリして固まってんじゃん!)
「カミラ?何を言ってるんだリリアさんはサルヴィーニ伯爵家の跡取りで、ヴィルティスを婿に迎えたいと言ってるんだぞ?」
「えぇ、ですが彼女は加護持ちなのですよ?
ならヴィルティスよりもちゃんとした相手と結婚したほうが良いわ」
夫人のその言葉に今度は俺のこめかみがピクついた。
「ちゃんとした相手って…」
「長男はもうお相手が決まっておりますが、次男はまだですのでリリアさんのお相手にどうかしら?」
「いえ、ですから私は跡取りですので」
「我が家の近くに新しく家を建てて、そこに住んでもらったら安心して暮らせていけるわ、跡取りはリリアさんが子供を二人産んで一人をサルヴィーニ家に…」
(……駄目だ、話しを聞かないで暴走してる)
「いい加減にしないかカミラ!リリアさんも困っているだろう!?」
めちゃくちゃな事を言っているカミラに、ヴィルティスとどうしたものかと視線を合わせていると、デオンが叱り飛ばしてくれた。
「どうして!私はアイツのせいで何年間も苦しんだのよ!?
その元凶が私の息子達を差し置いて加護持ちと結婚して幸せになろうだなんて許せない!!」
「カミラ!!」
(ヴィルティス!)
あんまりな言い様にヴィルティスの方を向くと、顔面蒼白になっていた。
(大丈夫、俺は味方だから)
膝に置いていた手を握ってやると、ひんやりと冷たくなってる。
(いつもは安心するぐらい温かいのに……)
今直ぐにでも手を引いてここから連れ出してやりたいが、言い争っているバールナー夫妻を置いて勝手に出て行っても後で確執が生まれそうだ。
(って言うかデオンも加護持ちの俺は気遣ってるけど
ヴィルティスへのフォローはしないんだな)
文字通り元はアンタが蒔いた種だと言うのに…。
そう思うとカミラの暴言よりもデオンの無責任さに腹が立ってくる。
(カミラも被害者の一人なんだよな…夫が勝手に外で自分以外の女性を相手にして、その上その相手の子供を家に住まわされてるんだから…でも)
ヴィルティスに当たるのは違うだろ!?
しかし相手は辺境伯家のご夫人だ、ローズ&マリーの時の様に詰める訳にもいかないし…。
(そもそも噂に踊らされているじゃなくて彼女は当事者だ、ヴィルティスに対する意識を変えて受け入れろってのも酷な話しだよな?)
「リリア、父上達は俺が何とかするから君は宿屋に戻った方が……」
「大丈夫です、私に任せて下さい」
「リリア?」
ヴィルティスの手を離して立ち上がる。
そして言い争いで興奮しているカミラに膝を付いて手を取り、意識を俺に向けさせた。
「あっ…リリアさん…」
「カミラ様、無許可で触れてしまった無礼をお許しください」
そしてどうか私の話しを聞いてくださいと呼びかける。
「カミラ様のお気持ちは伝わりました、ですが私は
ヴィル様以外の方と婚約する気はありません」
「だけど、アイツより私の息子の方がっ!」
「その息子さんが社交界で何をしてたのかご存知ですか?」
「えっ?」
(意識を変えられないなら、問題をすり替えればいい)
「学園に入学した翌日から、ヴィル様の噂が広まっていたのですが、流石に広まる速度が速すぎると思っていました」
「リリアさんっそれは!」
デオンが遮ろうとしたけど構わず続ける。
「たまたまその場に居た知り合いから聞いたのですが、バールナー辺境伯家の長男と次男が、妾の子である三男の噂を流していたとか」
これは夏季休暇に入る前に『挨拶の時に何かあったら使えそうだから』とゲイルが教えてくれた情報だ。
「私はそんな事をする様な人とは婚約出来ません」
「でもアイツが妾の子であるのは事実でしょう!?」
「ですが、その噂のせいで私は知人に叩かれて怪我をする騒ぎに巻き込まれました」
(まぁ半分は俺の自業自得だけどね、でも息子達が流した噂のせいで結果的に加護持ちが怪我をしたとなったら、勢いも止まるだろう)
俺の目論見通り、ゲイルからその時の報告を受けていたカミラが怯む。
「それは……」
「カミラ様にヴィル様を受け入れて下さいとは言いません、ですがヴィル様はずっと私の事を守ってくれて、私の為に薬学を学んで助けになりたいと励んでくれています」
そこまで言ってすぅっと息を整える。
「私はそんなヴィル様とずっと一緒に居たいのです
どうか私達の婚約を認め、将来結婚する事を許して下さい」
ペコリと頭を下げ反応を伺う。
(あぁっ遂に『息子さんを私に下さい』的な事を言っちゃったよ!沈黙が怖い!ヴィルティスも何か言ってくれ!)
心の中で大暴れしていると、ヴィルティスに後ろから肩を抱かれて立ち上がるように促される。
「ありがとうリリア、君の気持ちが伝わって嬉しいよ」
そう言ったヴィルティスの顔は赤くなっている。
(うん、だいぶ恥ずかしい事を言ったもんね)
そこへゴホンとデオンが咳払いをする。
「カミラ、リリアさんの意思は固いようだし息子達のせいで迷惑をかけてしまった…これ以上の無理強いはしてはいけない」
「父上」
「良い人を見つけたなヴィルティス、せっかく来て頂いたのにみっともない所を見せてしまって申し訳ない、リリアさん息子をよろしくお願いします」
そう言って頭を下げる辺境伯家当主は何だか小さく見えた。
(もしかしたら彼なりにヴィルティスの事は考えていたのかな?)
でもあまりにも伝わらなすぎたし、結果的にヴィルティスもカミラも傷付き続けてたのは許せないけど。
「はい、これからも二人で助け合っていきますね」
でもこれ以上留まっても仕方がないと、そう言って挨拶を終わらせてヴィルティスに宿屋まで送ってもらう事となった。
いつも読んで頂きありがとうございます!
更新が遅れてしまってすみません!
また頑張って書き続けていきますので、よろしくお願いしますm(_ _)m




