第26話 トラウマとお母様のアドバイス
『本当に下沢君ってバカだよね?ちょっと優しくしただけで好きになるなんて』
『マジで単純過ぎるって!あんなん春樹さんに近づく為の作戦なのにさぁ』
――誰もあんな奴、好きになんてならないって――
「!!………あっ……夢か……」
ガバっと起き上がると見慣れた部屋のベットの中だと気付いて安堵する。
「はぁ〜〜最悪だぁ……」
ヴィルティスの事を真剣に考えようと思った矢先に、前世のトラウマの夢を見るなんて。
優しくされて好きになって、気持ちを伝えたらこっ酷く振られて……。
俺のいない所でも、バカにして笑われているのを知って絶望した。
(気持ちを伝えなければ、そのまま友達でいられたのかな?)
利用はされていたけど、関係が崩れる事はなかったかも知れない。
「俺が好きだと告白しなきゃ……あぁそうか…」
ヴィルティスと向き合えなかった根本的な理由。
性別の事で否定したかった気持ちもあるけど、関係が崩れる事が怖かったんだ。
(前世でもそれで酷い目にあったから、引きずってるんだな)
告白が成功してもしなくても、友達のままでいられなくなるのは確実だ。
(ヴィルティスは『彼女』達の様に俺を笑う事はしないだろうけど……あれ?)
何でヴィルティスに告白する前提で考えてるんだ?
(いやいやいやいや!確かに向き合う覚悟は決めたけど、えっ!? 好きなの俺!? ヴィルティスの事を!?)
ベットから飛び起き、部屋の中をウロウロする。
(確かにヴィルティスに優しくされたりしたらトキメクよ? でもそれはチョロイン属性のせいだと思ってたけど、でもゲイルに優しくされても何にも感じなかったし…じゃあヴィルティスにだけ反応してたのは何でだ?)
騒ぎが大きくなると分かっていても、ヴィルティスの噂を払拭したかったのは?
アイリスと仲良くなってヤキモチ焼かれたのを嬉しく思ってしまったのは?
あんなにも真剣にお茶を淹れる練習を頑張ったのは?
今後もデートが出来ると分かって胸がムズムズしたのは?
ヴィルティスに好きな人が出来たら、婚約は解消される事実に嫌な気持ちになったのは?
(あぁ、もうこれチョロイン属性のせいだけとは言えないじゃん)
切っ掛けはそうだったとしても、この気持ちは全部俺自身の心で、そして俺の意思で行動してたんだ。
(でも、まだ怖い……)
前世のトラウマが進もうとする足を引っ張る。
何か振り切れるだけの強い一手が欲しい。
「――リリア!? どうしたのその顔!?」
「あっお母様、おはようございます…」
朝から娘に対する第一声にしては酷いなと思いつつも、夜明け前に目が覚めてからずっと考え込んでいた為、俺の顔はどんよりと生気がなくなってしまっているから仕方ないか。
「まずは湯浴みをして、サッパリしてきなさい
レミーナ!頼めるかしら?」
「かしこまりました奥様、さぁリリアお嬢様こちらへ」
(あぁレミーナの手も煩わせてしまって申し訳ない)
レミーナに謝りながら、少し温めのお湯を全身に浴び眠気を覚まさせる。
湯上がりに冷たいお茶を淹れてもらい、それから身支度を整えて朝食の為にダイニングへと向かう頃には、酷かった顔もモヤモヤしてた頭の中もスッキリして来た。
「お待たせ致しました、お父様はもう出掛けられたのですか?」
「えぇ、今日は朝から商談があるから…リリアも顔色が良くなってきたわね」
「はい…ご心配をお掛けしました」
テーブルにつき朝食のオムレツを食べ始めた俺を、お母様がジッと見つめる。
「お母様?」
「昨日私が『彼に対して向き合うように』と言ったから、寝不足にさせてしまったかしら?」
ちょっと困った顔をするお母様に慌てて否定する。
「お母様のせいではありません、実は前からヴィル様への気持ちに答えを出さなければと思っていたんです」
「あらっそうだったの?」
「はい…ですが、怖くなってしまって」
カチャリとフォークを置いて項垂れる。
(これ、お母様に相談してしまっても良いのか?
でも一人でグルグル考えるより誰かに意見を聞いた方が、突破口が開けるかも)
「怖い?」
「はい、ヴィル様は学園で初めて出来たお友達で、
一緒にいると楽しくて大切な人なんです…今この気持ちを認めてしまったら、ヴィル様との関係が変わってしまいそうで怖いのです」
伝わるかなと言葉を選びながら、自分の気持ちを吐き出したら何だか少し気持ちが晴れた気がした。
お母様は俺の言葉を聞いて少し考えた後「取り敢えず冷める前に食べちゃいましょう」と、朝食を食べ切る提案をしてきたので、置いていたフォークに再び手を伸ばす。
(確かにせっかく作ってくれた料理なんだから、ちゃんと食べないとだな)
――朝食を食べ終えた後、お母様に誘われて2階にあるバルコニーにやって来た。
「リリア、あそこに小高い丘が見えるでしょう?」
お母様がお屋敷より少し歩いた先にある丘を指す。
「あそこで私は貴女のお父様にトドメを刺されたの」
「トドメを刺された!?」
(何かいきなり物騒な言葉が出てきたぞ!?)
俺の反応に笑いながらお母様が話し出した。
「私達は家同士の繋がりの為に結婚した…所謂政略結婚だったから、リリアの言う関係が変わってしまう怖さは解決してあげられそうにないわ」
いきなり両親の馴れ初め話しが始まって面食らう。
(って言うか政略結婚だったのか、仲良いから恋愛結婚だと勝手に思ってたわ)
でもまぁ貴族社会なら政略結婚も珍しくはないかと思い直して、お母様の話しの続きに耳を傾ける。
「最初はね?全然タイプじゃなかったし、好きになんてならないわと思っていたのよ」
「えぇ~?」
「でもね慣れない土地で、領主の妻と言う肩書きを背負っていっぱいいっぱいな時に、屋敷の花壇に黄色の花が植えられているのに気付いたの」
(そう言えば、いつも花壇には季節毎に黄色の花が咲いてるよな…あっ!)
「黄色の花はお母様がお好きな花ですよね?」
「そう!あの人ったら私が元気になるように、わざわざ私の両親に好きな花を聞いて、花壇に植えてくれてたのよ!」
(おぉ!お父様がそんな粋な事を!?)
「それから段々彼の言動が気になり始めてね、彼の優しさに触れる度に私の中で好きと言う気持ちが風船みたいに膨らみ始めたわ」
うっとりと話すお母様に、なんだかこっちが照れてくる。
「そしてある満天の星空の日、あの丘でプロポーズを受けたの」
「えっ?結婚をした後にですか?」
「そうよプロポーズの言葉は私達だけの秘密だから内緒だけど、跪いて私の手を取り愛の言葉を贈られた時、膨らみ続けた私の心は撃ち抜かれたわ」
(成る程、それでトドメを刺されたって言ったのか)
「お母様にとって、あの丘は思い出の場所なのですね」
「えぇ、好きと言う気持ちがあふれ出た場所よ」
そう言って俺の肩にポンと手を置く。
「リリアももしかしたら、風船が膨らんでいる途中なのかも知れないわね」
「多分…私もそんな気がしています」
「風船が割れたらね、怖いって気持ちが吹き飛ぶぐらいに好きだと言う感情が止まらなくなるわ」
(それは、俺のトラウマも吹き飛ばしてくれるのかな?)
「関係は変わってしまうけれど、終わりじゃない
新しいスタートだと思って前に進めば良いのよ」
「お母様…」
「大丈夫、私もお父様もレミーナも領の皆も、皆リリアの味方だからね」
「はい!ありがとうございます!」
(相談して良かった『お母さん』ってこんなに心強いんだな)
前世ではこんな相談出来なかったもんなぁと感動を覚えつつ、その心強いお母様から「バールナー辺境伯家へご挨拶へ向かう為のドレスを選びましょう!」と提案を受け、レミーナを交えたファッションショーが開催され、帰って来たお父様を驚かせてしまったのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます!
前世のトラウマについては3話でも語られています。
娘に惚気るお母様の会話は書いてて楽しかったです。




