第25話 運命の夏休み
「リリア様、寂しいです〜」
「また直ぐに会えるわアイリス、それと夏季休暇中にティエラ領で行われる『ピオス祭』があるから是非遊びに来てね」
「絶対に行きます!」
一学期の終業式も終了し、寮生達は実家に帰省する為に荷物をまとめたり、家族や馬車を待っていたり、アイリスと俺のように挨拶をしている者と様々である。
因みに『ピオス祭』と言うのは薬草の神様と呼ばれるピオス神に、夏の暑さを無事に乗り越えられますようにとお願いをするお祭りだ。
(ヴィルティスも一応誘ってはいるけど、領の皆には婚約者の話しは秘密にしておこう)
領全体に話しが広がると、万が一ヴィルティスに好きな人が出来て婚約が解消になった場合、説明するのが大変になってしまうからな。
(なんか……そう思うと胸の辺りがモヤってするな)
『婚約の期間は、卒業するかお互いに好きな人が出来るまで』
そう決めた筈なのに、嫌な気分になっちゃうのは駄目だろう。
(いい加減『答え』を出さないといけないよなぁ)
「リリア様?どうかなさいましたか?」
「なっなんでもないわ、ちょっと家族に説明をするのが大変だなって思ってしまっただけよ」
「確かに、お手紙だけだと伝わりきれませんからね」
(あっぶない!アイリスに心配かけちゃ駄目だろ俺!)
「そう言えば、ポイズンラビットの大量発生の原因が終業式間近に判明したわね」
「そうですねぇ、何でも彼等の餌になる毒草が森の入り口付近に群生していたとかで、夏季休暇中に対処して下さるそうなので二学期からは実習が再開できそうです」
毒草の群生する場所が変わった事も怖いけど、前世でもミントとか葛とか凄い勢いで侵食したりするから、異常事態とかでもないのかな?
取り敢えずこの事は学園側にお任せしようと考えていると、荷物をまとめ終えたヴィルティスがやって来た。
「リリア、アイリス嬢も準備が終わったんだね」
「はい、ヴィルティス様も暫くの間お元気で、リリア様の事をよろしくお願いします!」
べコリとお辞儀をして「リリア様〜!お祭り絶対に行きますからね〜!」と元気に手を振りながら、アイリスが先に実家へと帰って行った。
「アイリス嬢は元気だね」
「彼女の元気と明るさには、いつも助けられています」
実際にアイリスが居ると場が明るくなるもんなと、ほっこりした後ヴィルティスに向き直る。
「ヴィル様、ご挨拶は先に私の方から向うのですよね?」
「そうだね、お嫁さんをもらう場合は男性が女性の家に行くのが先だけど、俺の場合は婿入りするからね」
(つまり俺が『息子さんを私に下さい』を言う側なのか、何かちょっとフクザツ)
「日取りは伝えた通りたけど、その日まで元気でね」
「ヴィル様もお元気で」
きゅっと握手をした後、ヴィルティスとも別れる。
実家からの馬車がもう直ぐ到着する時間だ。
(やっぱりアイリスが言った通り、ちょっと寂しいな)
――馬車の中から見える見慣れた、けれども懐かしい景色に寂しかった気持ちが回復する。
(この大きな木!ここを過ぎると……)
リリアの…俺の実家であるサルヴィーニ伯爵家のお屋敷が見えて来た。
「リリア!」
「あぁ、リリアお帰りなさい!ずっと心配していたのよ」
「お父様、お母様、ご心配をおかけして申し訳ありません!ただいま帰りました」
屋敷の入り口で待っていた両親にギュウっと抱き締められる。
(ちょっと苦しいけど温かいなぁ、本当に心配かけて申し訳ない)
「リリアお嬢様!お帰りなさいませ」
「ただいまレミーナ!」
ひとしきり抱擁を交わした後、着替える為に自室へ向かおうとすると、メイドのレミーナも駆け付けてくれた。
「本当に心配致しました、お怪我などされていませんか?」
「心配かけてごめんなさい、この通り元気よ」
レミーナが教えてくれたお茶の淹れ方を練習して、友達に披露した事を話しながら、身支度を手伝ってもらう。
「自分で淹れるのも楽しいけど、久し振りにレミーナが淹れてくれたお茶が飲みたいわね」
「喜んでご用意致します、旦那様と奥様がお待ちしておられるリビングにお持ち致しますね」
「楽しみにしているわ」と伝えた後、両親の待つリビングへと向かった。
「――成る程、そんな事があったのか…」
「手紙でも読んだけど、本当に大変だったのね」
両親にこれまでの事を説明して、レミーナが淹れてくれたお茶で喉を潤す。
「まさか本当にリリアが加護持ちだったとは…」
「ティアメル教会の言い分にも腹が立つわ!私達の大切な娘を教会の道具にしようだなんて!」
「お母様、落ち着いて下さい」
大切に思ってくれているのは嬉しいけど、教会に喧嘩は売らないでね?
「今、教会と王都周辺の貴族達の間で不穏な空気が漂っていますので、直にライニール様は責任者から降ろされると思います」
「そのようだな、今我々に出来る事はリリアを守る事だ、幸いにもキャンベル公爵家からご助力を頂いている……それに……」
……うん、娘に婚約者が出来た話って言い難いよね。
「バールナー辺境伯家の御三男が、リリアの婚約者になって守って下さってるんだよな?」
「はい、お陰で平穏な学園生活を過ごせておりました」
家の中でも着けている蝶々の髪飾りにそっと触れると、お父様が複雑な顔をしている。
「お父様?」
「いや、そのだな、彼とは作戦上の婚約者なんだよな?」
「?、はいご協力して頂いております」
(あれ?ちゃんと手紙でも書いたよな?)
不思議に思っていると、コホンと咳払いをしたお母様が俺に問いかける。
「リリアは彼の事をどう思っているの?」
「ふぇっ!?」
(いきなり何を!?)
「ヴィっヴィル様とはお友達ですよ!?」
「あらそうなの?…でも、ねぇ?」
(でも何!?)
「さっきの髪飾りに触れる貴女のその顔、愛しい人を想っている顔に見えたわ」
「〜〜〜!!!?」
(どんな顔をしてたの俺!? いや見間違いだ、きっとそうだ!)
「おっお母様の見間違いでは?」
「あらっアナタもそう感じてるわよね?」
チラリとお父様の方を見ると、さっきと同じ複雑な顔のままだ。
(えっ?そうなの?待って、学園の皆はどう見えてたの!?)
プチパニックになっていると、お母様が隣に座って俺をギュッと抱き締める。
「リリア、初めての感情に戸惑ってしまうのは分かるわ、しかも今の貴女は複雑な状況下にあるから余計に考えがまとまりにくいと思うの、でもね自分の心に言い訳しても良い事なんて無いわ」
「お母様…」
(自分の心に言い訳、何かズシって来る言葉だな)
「近くに居るより離れていた方が気付く事もあるわ、ゆっくり自分の気持ちに向き合ってみなさい」
「……はい」
(もうこれ、『はい』って返事以外出来ないよ)
「移動と説明で疲れたでしょう? 今日はもうゆっくり休みなさい」と言う両親の気遣いで、漸く解放された俺は、髪飾りを外して自室のベットにパタリと倒れ込んだ。
「自分の気持ちに向き合う……かぁ」
今までずっとチョロイン属性のせいにして来た。
俺は男だから男を好きになんてならないと、言い張ってた。
(本当に『答え』を出さなきゃな)
チョロインのリリアではない、『俺の気持ち』を。
(自分の心に言い訳しないで、ヴィルティスの事を真剣に考えよう)
夏季休暇は長いんだと、そう新たに決意をした。
いつも読んで頂きありがとうございます!
第二章 夏休み編スタートです!




