第24話 夏季休暇へ向かって
「茶葉はどれにしようかな~」
自室にて今日のお茶会に使う茶葉を決める為、何種類かテーブルに並べる。
「やっぱり水出しにするならダージリンかな?」
夏が近付いて来たので最近は水出し紅茶を練習しているし、外で飲むならちょうど良いかなとダージリンを手に取り、保温の魔法具が付いたポットに冷たい水と共に茶葉を入れる。
(後は3時間以上置いておけばオッケーだな)
この魔法具のポットは温かい状態でも冷たい状態でも温度をキープしてくれるので、前世みたいに冷蔵庫に入れなくてもこのまま置いておけて便利なのだ。
水出しの為に早目に準備をしているから、時間にはまだ余裕がある。
ふと外を見ると青い空に白い雲の下を、春から夏の装いに変えた生徒達が行き交っているのが見える。
(制服も夏服になったし、もう直ぐ一学期も終わるんだなぁ)
もう入学式での出来事が懐かしく思える。
予想外な事が多過ぎて、濃密で忙しない一学期だったな。
――数時間後、保温ポットと茶漉しと二人分のグラスセットをトレイに乗せて、ヴィルティスと待ち合わせにしているガゼボへと向かう。
(茶請けのお菓子はヴィルティスが用意するから、俺はティーセットだけで良いよって言ってくれて助かったな)
流石にリリアの細腕でこれ以上は運べないもんね。
「ヴィル様、お待たせ致しました」
「俺も今来たところだから気にしないで、それより重たくなかった?」
ガゼボには先に着いていたヴィルティスがお皿とフォークを出していたので、俺もトレイを置いて紅茶を淹る準備をする。
「これくらい大丈夫ですよ、今日は水出しでダージリンを用意してみました」
「今日は少し暑いから涼し気で良いね、俺が用意したのはこれなんだけど」
スッとお皿に盛られたのは甘い香りがするパイ系のスイーツ、この匂いは……。
「ピーチパイ?」
「正解!前にミートパイを食べたお店の夏限定メニューなんだって」
初デートで行ったお店、そう言えばスイーツ系のパイもあるって聞いたけど、お腹いっぱいで食べれなかったからまた今度って言ってもんな。
(って事は王都の街まで買いに行ってくれたのか)
「ありがとうございます、ヴィル様」
「リリアは暫く学園内から出れないからね、それにお茶を淹れてくれるお礼も兼ねてだから、これぐらい何でもないよ」
(その何気ない気遣いにトキメクんだってばぁ!)
動揺を悟られないように、茶漉しをグラスにセットして、ポットから紅茶を注ぐ。
「ヴィル様どうぞ」
「ありがとう、良い香りだね」
ピーチパイとダージリンが並ぶ、ちょっと豪華なティータイムが始まった。
「うん、美味しい!俺も水出しに挑戦してみた事があるんだけど、ちょっと味と色が着いただけの水になったんだよね」
「茶葉の種類でお水や茶葉の比率が変わりますからね、時間も長く置けば良い訳でもないですし」
俺も何回も失敗してたもんなと、練習の日々を思い出しながらピーチパイを一口食べてみる。
「ん、パイがサクサクで中の桃がトロトロで美味しいです!」
我ながら語彙力のない食レポだけど、流石あのミートパイのお店、美味しすぎる。
「気に入ってもらえて良かった、秋になったらアップルパイが出始めるから、また食べようね」
「はい!楽しみにしています」
(アップルパイかぁ、茶葉は何が合うのかレミーナに聞いておこう)
「そう言えば、街の様子はどうでしたか?」
俺の質問の意図を察したヴィルティスが少し考え込む。
「う〜ん見た感じの変化は見られなかったね、でも貴族達と教会の間で亀裂が入り始めたってゲイルから聞いたよ」
「ジェニー様が予想した通りになってきましたね」
今の所、俺へ接触しようと言う動きも見られないし
本当に噂が広がるのって早いなぁ。
(このままライニールが責任者から降ろされれば、俺と結婚する意味もなくなって平和が訪れるんだけど)
「夏季休暇で王都から離れれば、リリアも少し気が楽になるんじゃないかな?」
「そうですね、ティエラ領はあまり女神信仰に染まっていませんし、羽を伸ばせそうです」
何もティアメルが唯一神と言う訳じゃない、この世界には色んな役割を担う神々が居るとされ、薬草栽培が盛んなティエラ領では『ピオス神』と言う薬草の神様を信仰してる人が多いし、だからこそ信仰は自由とされている。
「のどかな所ですしヴィル様もティエラ領にいらっしゃったら、ゆっくりして下さいね」
「その前にリリアのご両親に認めて貰わないとだね」
(いや、作戦で婚約者になった事は知らせているから認めて貰うってどう言う……あぁ、人が近くに居るんだな)
俺達が居るガゼボは寮の敷地の庭にあるから、生徒達が近くを通っても不思議じゃない。
何なら今注目の的である俺達が二人の揃っているから余計に目立つしな。
(人に聞かれても大丈夫そうな会話にしておこう)
「私もヴィル様のご家族にお会いする時に、緊張してしまいそうです」
「リリアに対してうちの家族がどう出るか分からないけど、早目にきり上げるようにしようね」
俺と違ってヴィルティスの両親には作戦の事は伝えていない、何故ならヴィルティスが『そう言う事なら妾の子である俺より、次男を勧めてきてややこしい事になるから』と断言したからだ。
『恋ハピ』でも長期休暇でお互いの両親へ挨拶するイベントがあるけど、その時は『ただの伯爵家の娘』って感じで、リリアの事を厄介者を引き取ってくれる物好きな人扱いしてたな。
(でも今は数百年に一人の加護持ちだ、どう出てくるか分からないのは少し不安だけど……)
「不安じゃないと言えば嘘になってしまいますけど、せっかくの長いお休みですし楽しんじゃいましょう」
「……リリアはやっぱり強いね」
俺が場を和ませようとすると、ヴィルティスが少し笑いながら俺が強い発言をする。
「確か入学式の時もそう仰ってましたね、そんなに私って強そうですか?」
「だって双子に絡まれても平然としていたし、俺を庇ってくれた時も一人で立ち向かっていってたし、ポイズンラビットの件でも誰よりも先に動いていたんだよ?」
(うん、確かにそう改めて言われると強いな俺)
「少し淑女さに欠けてしましますけど、自分が出来る事をしようって決めてましたから」
「リリアらしくて良いと思うよ、けど……」
「けど?」
「やっぱりもう少し甘えて欲しいとも思うんだよね」
婚約者なんだからさと言われて、うっとなる。
(いやだって、中身が君より一回り上の男なんだよ!?
甘えるってどうやんの!?)
「せっかくの長いお休みなんだから、そこら辺も頑張ってみない?」
「がっ…頑張ってみます」
両親への挨拶より難関な課題が増えた瞬間だった。
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ここで一学期編は終了し、次回は終業式を少しだけ入れた夏休み編になります。
次章もよろしくお願い致します。




