第23話 人の噂千里を走る
「直ぐにキャンベル公爵家へ戻りますね」
「よろしくお願いします」
ライニールと話していた応接室から教会の出口に向かうと、俺達の急いでいる様子から何かを察知してくれた御者の人が直ぐに馬車を出す準備をしてくれる。
馬車が動き出し、離れて行く教会に入れていた肩の力を抜いてため息をつく。
「何と言うか…凄まじい人でしたね」
「そうだね、警戒はしていたけど予想以上に厄介そうだ」
(あんな奴が何で教会の責任者になれたんだろ?
その辺も含めてエリザベートと話し合わなきゃな
でもその前に…)
「ヴィル様、ライニール様から守って頂いてありがとうございました」
ヴィルティスにお礼を言わなきゃなと、座ったまま頭を下げると、ヴィルティスが困ったように頬を掻く。
「君を守るために付き添いに行ったのだから気にしないで、それよりも聞きたい事があるんだけど」
「なんでしょうか?」
「あの時、腕組んだのはどうしてかなって」
あれ?こいつは予想外!手を繋いだり、お姫様抱っことか躊躇なくしてたけど腕を組まれるのは駄目なのか?
「あれはライニール様に『自分達は利害関係で婚約したんじゃない』って示す為のアピールのつもりでしたけど…もしかしてお嫌でしたか?」
「嫌じゃない!全然嫌じゃないよ!理由を知りたかっただけだからね」
そう弁明するヴィルティスの頬が少し赤くなっていて、何なんだと思っていたらふと自分の胸元が少し
よれているのに気付いた。
(あ〜ヴィルティスの腕にしがみついた時かな?
エリザベートに会う前に直さないと……あっ!)
バッとヴィルティスを見ると素早く視線を逸らされる。
(腕に胸が当たってたのか!そりゃあ困るわな!)
「あの、すみませんでした」
「リリアが謝らないで!俺が変に意識しちゃっただけだから、むしろ俺の方こそゴメンね」
「ふふっどうしてヴィル様が謝るのですか……何だか保健室でのやり取りを思い出しますね」
俺が笑うのを見てヴィルティスも「そうだね」と謝るのを止めてくれた。
(謝り合ってもキリがないって話し、してたもんな)
そんなやり取りをしている内に、どうやらキャンベル公爵家に到着したようだ。
「――まさかそんな事があっただなんて……」
俺達の報告を受けたエリザベートが、頭を抑えて項垂れる。
(まぁ教会の責任者が婚約者が居る令嬢に『婚約を破棄して自分と結婚しろ』って言い寄った上に、ヴィルティスや俺の領地をディスたって信じ難い話しだよな)
「婚約者が居るなら無理に引き込まないと言う、私の考えが浅かったわ、リリアさんにも怖い思いをさせてしまったわね」
申し訳なさそうな顔をするエリザベートを見て、慌ててフォローする。
「そんな事はないです!エリザベート様の作戦のお陰で私は平穏な学園生活を続けられて居ますし、ヴィル様が守って下さったので怖くはなかったです」
「えぇ、それに我々の為に馬車を出して下さったお陰で、早々に帰還出来ましたから」
ヴィルティスも俺に続いてくれたからか、エリザベートも気を取り直してくれたみたいだ。
「それにしても教会の責任者がそんな非常識な発言をするなんて、信者の方々は知らないのかしら?」
「だからこそ聞かれないように、私達を人払いをした応接室に案内したのだと思います」
話しが通じないのに、そう言う所はしっかりしてるんだなぁと内心呆れる。
「今日は私達から無理矢理切り上げた形になるので、ライニール様は私の事を諦めていないと思います」
「またリリアに接触を図る可能性がありますね」
せめて婚約者破棄を迫ったり、暴言を吐いた証拠があればライニールを糾弾出来たりするんだけど、応接室には俺達しか居なかったし、この世界にボイスレコーダー的な魔法具は存在してないから難しい。
「接触の件は暫く大丈夫だと思う、近い内に彼は火消しで忙しいと思うからな」
悩んでいると、今まで静かにエリザベートの後ろで話しを聞いていたジェニーが口を開く。
「ジェニー様、それはどう言う意味でしょうか?」
「ティアメル教会がお布施の額を上げたり信仰を強要している話しを、前に話したと思うんだが」
「はい、覚えております」
その話しのお陰でティアメル教会を警戒出来たもんなと、思い出しながら頷く。
「それで教会に入るお金が増えたのに対して、出て行くお金が変わるどころか減っているんだ」
「えっ!?」
驚く俺達の前に、何枚か手に持っていた資料を広げてくれながら続ける。
「お布施は教会の運営は勿論だが、慈善活動や孤児院にも寄付金として使われていたのに、神官がライニールに変わってから寄付金が減っていると報告がされている」
資料には月毎に孤児院へ送られていた寄付金の金額が書かれていて、ある月から少しづつ減っているのが示されている。
「孤児院のシスターから相談を受けた貴族の一人がその話しを広めたみたいで、そこからライニールの懐に多くのお金が入っているとか、懇意にしている商人の娘が強引に教会へ入れられそうになったとか、噂の火種があちこちで燃え始めているんだ」
そうして俺達の方を見て少し眉を下げながら。
「君達も噂が広がる速さは知っているだろう?」
特に悪い噂は、と言うジェニーの言葉に納得しかない。
(確かにヴィルティスの出自も俺の加護持ちも、噂が広がるの早かったもんな、教会と言う大きな組織の悪い噂なら尚更大きくなりそうだ)
「だから噂の火消しで忙しくなるのですね」
その噂は貴族から民衆へと広がり、そして教会に居る信者達の耳に入るだろう。
そして自分達が渡したお金が使われずに、ライニールが独り占めしてると知ったら最悪暴動が起きるかも知れない。
「それでも何かして来ないとは限らないから注意はするように、何かあれば直ぐに私達へ報告を」
「分かりました、暫くは警備が厳重な学園内に居るように致します」
「リリアさんの安全の為にも、その方が良さそうね」
出かけられなくなるのは少し残念だけど図書館の本をいっぱい読んだり、アイリスとお茶会をするのも楽しいから苦ではないんだよな。
(あっ!そうだ、あれも出来るじゃん!)
あまり遅くなってはいけないからと、改めてエリザベートとジェニーにお礼を言って、再び学園寮へと送ってもらう為に用意してくれた馬車へ乗り込み帰路へ着く。
「ヴィル様、次の休日って何かご予定ありますか?」
「ん?今の所ないけど?」
馬車に揺られながら、先程思い付いた事をヴィルティスに提案してみる。
「ガゼボでお茶会をしませんか?」
(前にヴィルティスにお茶を淹れる約束してたけど、色んな事があって後回しにしちゃってたもんな)
俺の言葉にヴィルティスの顔がパァっと笑顔になる。
「良いの?」
「お約束していましたし、あれから練習も重ねてましたから披露させて下さい」
馬車が学園寮に着くまで「それは楽しみだね」と笑うヴィルティスと、茶葉の話しや持ってくるお菓子の話しで盛り上がった。
いつも読んで頂きありがとうございます!
リリア達が苦労していた『噂』と言う存在が、今回は助けになると言うイメージで書きました。




