第22話 ティアメル教会とその神官
俺達が婚約して1週間と少し、デート作戦をした時と同じキャンベル公爵家の馬車を借りて、俺とヴィルティスは先日招待を受けた場所へと向かっている。
(せっかくの休日なのに行きたくねぇ!)
表面は平静を装っているけど内面ではげんなりしている理由は、その場所と言うのがティアメル教会だからだ。
(まぁ遅かれ早かれ招かれる事になるとは思ってたけど、前にジェニーから話しを聞いてるから余計に近付きたくないんだよな)
だからと言って無視をしても、俺が学園に居る事もサルヴィーニ伯爵家の令嬢だと言う事も知られているから、何かしら行動を起こしてくる可能性がある。
なので敢えて誘いに乗って教会へ行き、穏便に対話を済ませてさっさと帰ろうと言う魂胆だ。
(おぉっ思ってたよりデカいな)
荘厳な雰囲気を放つ教会の前で馬車を降り、ヴィルティスと手を繋いで中へと入ると、物腰柔らかそうな若い男性が待っていた。
「加護持ちのリリア・サルヴィーニ様ですね?私は
ライニール、ティアメル教会の神官を務めております」
「初めましてライニール様、リリア・サルヴィーニです、こちらは婚約者のヴィルティス・バールナー様
私を心配して付き添いに来て頂いております」
俺の言葉にライニールの眉がピクッと動いたのを見て、おや?ってなる。
(俺達が婚約して1週間も経っているから、教会側も知ってるもんだと思ってたけど、まだ知られてなかったのか?それとも付き添いが居る事が想定外だった?)
何にせよ食えなさそうな人物だ、一見優しそうな見た目だけどジェニーからの報告を先に聞いているし、目が笑っているようで笑っていない印象を受ける。
(油断は禁物だぞ、それで何もなければ杞憂に終わったと思えば良い)
「いやしかし本来なら私どもが訪ねるべきなのですが、わざわざ加護持ち様にお越しいただいてすみません」
「いえ、学園内は関係者以外立ち入り禁止ですし、生徒の保護者であっても事前に許可を取らなければいけませんから」
(学園の生徒は貴族が殆どだから、その辺の防犯対策はキッチリしてるんだよね)
「そう言って頂けると助かります、では教会をご案内致しますね」
そう言って歩き出すライニールに質問を投げ掛ける。
「ライニール様、私に何かご用があったのでは?」
「えぇ、ですが入り口で立ち話しをすると、他の人達の目に付きますので落ち着いた所へ移りましょう」
まぁ確かに入り口だと目立つし邪魔になっちゃうから仕方ないと、繋いだ手はそのままにヴィルティスと一緒にライニールへ付いて行く。
「……仲が良いのですね」
「はい?」
「いえ何でもございません、こちらがティアメル様に祈りを捧げる祭壇になります」
ポソっと何かを言われて聞き返したけど、祭壇を案内されてはぐらかされる。
(大きなステンドグラスの前に祭壇があるのはよく見るけど、あそこにある像ってもしかして…)
「ライニール様、あそこにある像は…?」
「あちらは我らが創造の女神、ティアメル様の女神像でございます」
(うわ〜やっぱり見た事あるなと思ったよ!)
結構似てるな!っていうか昔の人はどうやってティアメルを認識したんだ?
(脳内で話しかけるタイプの女神じゃなかったから、もしかして直接人々の前に降臨したとか?)
「リリア?どうかした?」
「あっいえ、少し考え事をしていただけです」
ヴィルティスに声をかけられて我に返ると、ライニールが次に応接室を案内する。
「今お茶をご用意致しますので、どうぞお掛けになってお待ち下さい」
「いえお茶は結構ですので、ご用件を聞かせて下さいませんか?エリザベート・キャンベル様から馬車をお借りしていますので、あまりお待たせする訳にもいきませんから」
「……ほぅ?キャンベル公爵家の?」
「えぇ、学園から移動するのは大変だろうと、エリザベート様からのご厚意です」
これも作戦の一つだ、キャンベル公爵家がわざわざ馬車を貸すほど仲が良いとアピールするのと同時に、帰りが遅いと訝しまれるぞと口外に忠告する事が出来る。
(後、目的が分からん相手が出すお茶って怖くて飲めねぇよ)
「……では、今回お呼びしたご用件ですが…リリア様
ヴィルティス様との婚約を解消し、どうか私と結婚して下さい」
…………は?
バッと俺が反応するより先にヴィルティスが動いて、俺を背に庇ってくれる。
「何を突然、巫山戯た事を言ってるんですか?」
(ヴィルティスってこんな低い声出せるんだな、いやそんな事を思ってる場合じゃない!何だよ急に、人の婚約を解消させて自分が求婚するって正気か!?)
……いや、これはもしかしなくても加護持ちが狙いなのか。
「ライニール様いきなり初対面の、しかも相手の婚約を解消させての求婚だなんて突拍子が過ぎます」
「いえ、これは人々の為なのですよ」
ヴィルティスの後ろから批難しても、斜め上からの答えが返って来て全然効かない。
「この話しが人々の為とどう繋がるのですか?」
「簡単な事ですよ、私はティアメル様を信仰する教会の責任者で、リリア様はそのティアメル様のご加護を持っておられる…その二人が結婚して手を取り合えば、人々はどんな災厄が起ころうとも大丈夫だと安心する事でしょう」
……駄目だ頭が痛くなって来た。
「…つまり貴方はリリアを結婚と言う契約で縛って、教会の為に利用されろと仰ってるんですね?」
「人聞きが悪いですね、利用しているのは貴方でしょう?バールナー辺境伯家の厄介者さん?」
……耳を疑った。
きな臭い話しは出てるけど仮にも聖職者が人を陥れる発言をするとは思わなかったし、貴族の間でならともかく教会側がヴィルティスの事情を知っているのにも驚いた。
(いや、俺と結婚する為に調べてたのか…でもヴィルティスが俺を利用しているだなんて、その発言は許されないぞ!)
かと言ってローズ&マリーの時のように、大声で言い返してもライニールには効かないだろうし、教会の責任者に暴言を吐いたと言い掛かりを付けられる可能性もある。
ならばと、前で庇ってくれているヴィルティスの横に立ち、腕にギュッとしがみつく。
「っ!? リリア!?」
「今の発言、取り消して下さい」
ヴィルティスが吃驚してるけど、しがみつく力を強くして黙らせる。
(俺だってヴィルティスの言動に振り回されたり、ドキドキしたりしてるんだから我慢してくれ)
「…リリア様は彼の事情はご存知でしょう?
彼はバールナー辺境伯家の妾の子で、生家から厄介者扱いされてきたのです、貴女との婚約も加護持ち様と婚約すれば家族に認めてもらえると言う浅ましい考えでしょう」
「ヴィル様とお付き合いを始めたのは、私が加護持ちだと判明する前です」
「え?」
「それにヴィル様はサルヴィーニ伯爵家へ婿入りして、私が継ぐティエラ領を共に支えて下さるので利用されるだなんて思っておりません」
恋仲の噂は早い段階で流れていたし、サルヴィーニ伯爵家への婿入りはリリアルートで話していた内容だからか、思ってたよりスラスラと言葉が出る。
「ですのでライニール様、ヴィル様への失礼な発言を取り消して下さい」
ぐぐっとライニールの顔が歪むけど発言の撤回はしなさそうだし、もうこのまま帰ってしまおうかと思ってたら、諦めきれないのか別の方向で攻めてきた。
「ですが!リリア様がティエラ領をお継ぎになっても無意味でしょう!?」
「…今なんと?」
「リリア様のご加護の力は聞かされております!
そのお力があればポーションなんて不要では!?」
…危ない危ない、ヴィルティスの腕に手を回していなければ思わずぶん殴っていた所だ。
ふぅと息をついてライニールを睨みつける。
ポーションも薬草も、そしてティエラ領も『リリア』が大切にしているものなんだ。
「……私の加護の力、『聖水』と呼ぶようにしているんですけど…」
「おぉ!『聖水』何て素敵な響きでしょう」
「私が死んだらどうなると思いますか?」
「……へ?」
『聖水』は他の加護持ちの様な名称が欲しいなと思って付けた名だけど、話しの論点はそこじゃない。
「『聖水』は今、学園の方で保存出来るかの実験中ですが、私だっていつか寿命が尽きるでしょう、その時に火の加護『灯火』の様に力が消えてしまう可能性があります」
固まるライニールに追い打ちをかける。
「その時『聖水』に頼ってポーションが失われたら、その先どうなると思いますか?」
「…それは…」
「そうならない為にも『聖水』は有事の時に使用し、依存しない事が大事だと思うのです」
これは加護の力に依存するのは危険だと、アンジー先生も同意してくれていた話しだ。
「これ以上の対話は無意味ですね、ヴィル様帰りましょう」
「お待ちください!」
そう言ってヴィルティスの腕を引いて応接室の出口に向かうと、ライニールが手を伸ばして来たけどヴィルティスが振り払ってくれる。
「俺の婚約者に気安く触れないでくれますか」
「しかしまだお話が!」
「もう私は話したくありません」
ライニールを真っ直ぐ見て、キッパリと言ってやる。
「ライニール様は私の大切な婚約者と故郷を見下すような発言ばかりで、聞いていて気分が悪いです」
「それはリリア様の為を思って…」
「ご自分の為でしょう?馬車も待たせておりますので失礼します」
(思ってたよりとんでもない奴だったな、本当にあいつ聖職者か?)
取り敢えずキャンベル公爵家へ帰ったらエリザベートに報告と相談をしようと、待たせている馬車へと急いだ。
いつも読んで頂きありがとうございます!
今回書いてて思いました、名前や地名に『ティ』が入ってるのが多いなと。




